Avicii来日公演中止が正式決定。腹いせにプレイする可能性があったトラックを勝手に愛でる

  • twitter
  • facebook
  • line

衝撃の来日公演キャンセル。あまりに突然の発表だったため、俄かには信じられないファンも多かったようだ。もちろん、筆者もその1人である。クリエイティブマンの公式発表があるまでは、一縷の望みを捨てきれずにいた。ただただ残念であるが、やはりアヴィーチーも人間だ。ここ最近の彼の言動(デッドマウスやノエル・ギャラガーとのディスり合い等)を見る限り、肉体的な疲労だけではなく、精神的にも限界だったように思う。現段階で出ている本人コメントが妙にあっさりしているが、あまり額面通りに解釈したくないものだ。MV監督デビューへのプレッシャーを公演中止の理由の一つとしているが、真偽の程は如何なものだろう。

AVICII

とは言え、やり場のない憤りは隠せない。何せ今回は、最新アルバムにして最高傑作との呼び声高い『Stories』を引っ提げての来日公演である。正直なところ昨年の『True』ツアーよりもずっと期待値が高かった。「三度目の正直」を期待していたが、「二度あることは三度ある」になってしまった。その腹いせ(やや語弊があるが)に、彼が今回のライブでプレイする可能性のあったトラックを5つほどピックアップしたい。彼の楽曲だけではなく、マッシュアップで使われる元ネタにもフォーカスするつもりである。まずは『Stories』に収録予定のナンバーから。


For A Better Day


このMVこそが、アヴィーチー自身が監督を務めた2本のうちの1本である。要するに、彼が言うところの「プレッシャー」の発生源にあたる。そう考えると、やや心がザワザワしてしまうが、中身に関しては流石のこだわりようだ。牧歌的な歌詞とサウンドに相反するような内容である。このストーリー性溢れる演出は、やはり俳優である母(アンキ・リデン)の影響だろうか。なんとなく『残響のテロル』っぽい。臆面もなくこのようなMVを作れるあたり、元々映像作りに興味はあったのだろう。シンガーにアレックス・エバート(映画『オール・イズ・ロスト』でゴールデン・グローブ賞の作曲部門を受賞)を起用したことにも、何かしらの因果を感じる。オールドライクなトラックメイキングも出色の出来だ。


Pure Grinding


こちらも忘れてはならない。「For A Better Day」と同時にドロップされたMVである。監督も同じくアヴィーチーだ。またしても過激な内容。ギラギラとしていながらも、どこか素朴な質感がたまらない。個人的な好みを言わせてもらえば、MVもサウンドもこちらの方が好きである。『Stories』の中でも、特に輝きを放つトラックになるだろう。王道EDMだけではなく、よりアングラ志向の強いトラックも、高いクオリティで作れることを証明して見せた。改めて彼の多才さを思い知る。近頃声が大きくなっているEDMシーンへの批判に対する返答と解釈できなくもない。


Hey Brother (Syn Cole Remix) [Radio Edit]


Syn Cole(サイン・コール)は、エストニア出身のEDM系プロデューサーである。アヴィーチーも所属するレーベル、「LE7ELS」のアーティストだ。やはりと言うべきか、彼もまた美麗なトラックメイクが得意なプロデューサーとして知られている。数ある「Hey Brother」のリミックスの中でも特に評価が高く、アヴィーチーもライブでよくプレイするナンバーだ。実はこのサイン・コール、以前に2度ほど来日経験があり、熱心なファンの間では既に知られた存在である。「It’s You」や「Bright Lights」など、彼のオリジナルにもぜひ注目してもらいたい。


Seek Bromance


アヴィーチーが別名義でリリースしたナンバー。Tim Bergという名義は、本名のTim Bergling(ティム・バーグリング)に由来する。この曲のスマッシュヒットにより、彼の名は世界に知れ渡ることになる。リリースは2010年であるが、未だに根強い人気を誇る楽曲だ。当時はまだ二十歳前後であるが、既に「アヴィーチー節」は確立しているように思う。彼の最大の武器である圧倒的なメロディセンスは、この頃から輝いていた。今回のライブで聴きたかったものである。


Dare Me


こちらはマッシュアップの元ネタである。「Ultra Music Festival 2015」でプレイしていたが、そのクオリティの高さは筆舌に尽くし難い。ちなみに当時の様子はアヴィーチーのオフィシャル・サウンドクラウドで確認できる。彼はこれまでに様々なジャンルの音楽をクロスオーヴァーさせてきたが、彼のパーソナルな部分に最も近いのはこの年代ではないだろうか。「常に革新的でありたい」というのが彼の制作活動における信条だが、それは過去の音楽に対するリスペクトありきの進化なのだと思う。前作の『True』でも、彼の音楽に対する愛情は痛いほど伝わって来た。


文字にして改めて、喪失感の大きさを思い知っている。白状すると半ば自分を慰める気持ちでここまで書いてきた。紹介したいトラックも、まだまだ沢山ある。「Wake Me Up」とのマッシュアップで最近よく使われるHenrik Bの「Hold On」や、制作上の理由で惜しくも『Stories』から漏れてしまった「Heaven」など、シーンのアンセムになれる可能性を秘めている曲は多い。両者共に公式では未発表の曲なので、ここでのフォーカスは差し控えるが、リリース後はぜひともチェックしてもらいたい。

次回に期待したいところだが、果たして次はいつになることだろう。当初の「延期」という名目ではなくなっているのも気がかりである。いずれにせよ、何らかの形で日本には来てほしい。日本のファンは、首を長くして待っている。