ヒッチハイクで「朝霧JAM」まで行けるのか!?
野外フェス好きはピースフル!
はじめまして、2002年のフジロックで洗礼を受けて以来、国内のさまざまな野外フェスに詣でております、ライターの熊山と申します。
北は北海道から南は鹿児島まで、その移動手段となるのが愛車のスクーター。なんせ野外フェスは、人里離れた場所で開催されがち。30歳をすぎてから二輪の免許を取った理由も、「フェスに行きたかったからだ」といっても過言ではありません。
逆にいえば、クルマやバイクみたいな自由なアシがないと、山里で開催されるフェスにアクセスするのって大変なんですよ。公共交通機関やシャトルバスは、常に混雑&順番待ちだらけ。交通費だってバカになりません。このアクセスの困難さから、郊外型のフェスに興味はあるのに行けないという人も少なくないのではないでしょうか。
そこで移動手段のひとつとして検討したいのが、「ヒッチハイク」です。
特にフジロックや朝霧JAMみたいな、へんぴな場所で開催され、なおかつ「シェア」「ピース」「出会い」みたいなムードにあふれたフェスだと、その成功率はきっと高いはず。ぼくだって「フジロック」と書いたボードを掲げた女子が道ばたにいたら、絶対に乗せてあげますもんね。
それだけ野外フェス好きはあったけえ。あったけえんだよ。
…という期待を胸に、毎年10月に開催される「朝霧JAM」(静岡県富士宮市)の会場までヒッチハイクで向かってみることにしました。
【準備編】大きいスケッチブックと黒いガムテを買う
とはいえ生まれてこのかた2~3回ほどしかヒッチハイクの経験がない筆者。しかし、テレビ番組などでそのお作法はなんとなく通じております。すなわち──
大きなボードに目的地を書いて、道行くクルマに笑顔を振りまく
これじゃないかと。しかしワンフレーズにまとめると簡単そうですが、やるべきこと、考えるべきことは意外にもたくさんあります。
まず、なるべくデカいスケッチブックを入手します。スケッチブックはデカければデカいほど良し。なぜなら路上にはサインがいーっぱい。しかもそれらがけっこうなスピードで流れているのです。ドライバーにしてみれば、そんな生き馬の目を抜く路上で小さなボードなんて目に留まりません。
迷わずドンキで一番大きいA3のスケッチブックを買いました。
次に黒い太マジック…と行きたいところですが、いくら太ペンでも大きなキャンバスだと文字が細くなるし、大きい文字を描くと今度は塗りつぶすのが面倒くさそうというわけで、もっとも簡単に視認性を最大化できるよう、今回は黒いガムテープもあわせてお買い求め。
これを切り貼りしてデカ文字にするのです。「朝霧」という文字は画数が多いので大変でしたが、なんとか作りました。視認性グンバツじゃないですか? もっともペンで書くより時間がかかっちゃうので、万が一朝霧JAMのお客さんが捕まえられたなかった時のために、「静岡」という文字も作っておきました。
本当は「富士宮」「新富士」などの文字も作っておきたかったんですが、すでに出発までに3時間を切っていたので断念。おやすみ。
【実践編】ヒッチハイクするポイントが大切
▲ヒッチハイカーの聖地・用賀IC
朝5時、始発の電車で向かったのは東急田園都市線の用賀駅。ここから1kmほど歩いた先に、この日のヒッチハイクポイントである東名高速道路の東京インターチェンジ用賀出入口、通称・用賀ICがあります。
そう、肝心なことを書き忘れていましたが、スケッチブックと並ぶ重要なポイントが「いつどこでヒッチハイクするか」という問題です。当たり前ですけど、朝霧JAMに向かうクルマが一切通らない道路でヒッチハイクしても絶対に辿りつけませんからね。
今回でいうと微妙なのは、東京から朝霧JAMの会場に向かう場合、中央道と東名高速の2つのルートがあるという点。特にナビでルート検索すると中央道ルートを推奨されることが多く、実際筆者もこれまで中央道からしかアクセスしたことがありません。
ただ、中央道の場合、ヒッチハイクできそうなポイントがパッと思い浮かばないのが懸念点。普通に考えたら、永福IC、高井戸IC、調布ICあたりなんでしょうか。ともかく自信がないので、今回は東名高速に絞り、世田谷区の富裕層がゴソッと侵入してきそうな用賀ICで張ることにしたのです。実際、西に向かうヒッチハイカーのメッカとしても有名。下手したら同じく朝霧に行きたいライバルたちがうじゃうじゃいるんじゃないかとの不安を抱きつつ向かってみると──
誰もいません。
もしかして前日深夜が出発ラッシュの時間帯で出遅れちゃったのかもしれない。少々焦りながらも午前6時、慣れない笑顔で渾身の朝霧ボードを掲げヒッチハイクスタート。
しかし、土曜の早朝はゴルファーらしきおっさんが複数乗車したセダンだらけ。たまにクルマが停まったかと思えば、ゴルフバッグを持ったオジサマ同士の待ち合わせです。
とはいえ、まったくフェス客がいないかといえばそうではなく、ワゴンの荷室にキャンプ道具を満載した、ファンキーで愉快な雰囲気の人たちが、こっちを見て笑顔で通り過ぎることもしばしば。でも定員乗車だったり、気づかれるのが遅かったり、あるいは追越車線側にいたりして、なかなか停まってくれません。
▲大阪に行きたい若者。ボードも文字もけっこう小さい
そうこうするうち、ぼくのそばに一人の若者がやって来ました。聞けば、今日中に大阪に行きたいというヒッチハイカー。彼は開口一番「あさづゆって埼玉ですよね。ここでヒッチハイクしても行けなくないですか?」と早速ダメ出し。いや、これ読みにくいけど「あさぎり」だし、しかも埼玉のは「あさか」だし、といろいろ言いたいことをグッとこらえ、これまで仙台や長崎までヒッチハイクで向かったという彼のありがたい話に耳を傾けます。いわく──
「ヒッチハイクするなら環八沿いでやった方がいい」
「目的地がマイナーすぎるので静岡とか名古屋とか有名な場所にした方がいい」
▲「よく出来てるねー」と近づいて来たパイセン。「朝霧までなら5万円で行くよ」とのこと。営業か!
すると、そんな我々の様子を見かけたタクシーの運転手までがやってきて「昔、ぼくも鹿児島までヒッチハイクで行ったことがあってねえ。ポイントは『海老名』とか『足柄』とか短い目的地で刻むことだよ!」とパイセンたちによる助言合戦が始まりました。
いや、俺はピンポイントで朝霧客を捕まえたいんだよ! わかる人だけにわかればいいんだよ!ということを丁寧にご説明して、ありがたいアドバイスの数々をスルーいたしました。
しかしながら捕まらない朝霧ジャマー。時間も午前7時をまわり、10時の開場を考えると、これからだと完全に出遅れた人たちしか残っていません。
やっぱり前日深夜から張っておくべきだったかー!と後悔していると、突然ディセプティコンのステッカーを貼った1台のジープが停まりました。荷室にはキャンプ道具が満載。これはもしや!と駆け寄ってみるとビンゴ。朝霧JAMに出遅れたおじさん2人組なのでした。
▲『トランスフォーマー』が好きなようです。ボディ右側にはオートボットのステッカーも
今回ご親切にも朝霧高原まで乗っけてってくださったのは、都内でデザイン会社を営む土屋和浩さん(46)と、シェフの鴨川知征さん(42)。もともと土屋さんは、会社の社員旅行が毎年フジロック5日間というほどのフェス好きで、最近お友達の鴨川さんをフェスの世界に引きずり込んでいるのだそう。
実際、土屋さんはフェス運営にも携わっているそうで、「11月7日に長野県小諸市の安藤百福センターで開催される『小諸ツリーハウスプロジェクト 信州の収穫祭 2015』にもみなさんぜひ来てください!」とのことでした。
クルマに載せてもらったお礼で告知です。
▲朝霧JAMは7~8年振りという土屋さん(左)と、初朝霧の鴨川さん
ちなみに、筆者を乗せてくれた理由は「常にノリで動いているので。普通の人ならこんな金髪の人は乗せないよね」とのこと。「フジロックや朝霧は雰囲気が好きなので、席が空いてたら乗せちゃうな」とも。実際フジロックで知り合った人とテントサイトで一緒に飲んでそのまんまテントに泊めちゃうこともあるそうです。ちなみに「サマソニは?」と聞いてみたところ「電車で行け」とごもっともな意見。筆者もそう思います。
▲ちょっとお天気が心配でしたが富士山をキャッチ!
▲途中で休憩するSAやPAでは、乗せてもらったお礼にドリンクを差し入れする気づかいもほしいところ
目的地や共有している趣味が一緒なので、道中での会話が弾みやすいのもフェスヒッチハイクの醍醐味。「今回はどのステージが楽しみ?」「富士山をバックに誰を観てみたい? シガー・ロスかな~」などフェス談義に華が咲き、気づいたら会場まであっちゅう間に到着しました。
結論:野外フェス、とりわけフジロックや朝霧JAMにはヒッチハイクで行ける!
さて、仕事も終わったし、チケットもないし、富士山バックに写真でも撮って帰るか…と思っていたら鴨川さんから「実は本当は奥さんと来る予定だったんだけど、前夜にケンカしちゃったのでチケット余ってるんだ」とのありがたいオファーで、一緒に入場してテント張りを手伝うことになりました。
▲隣の女子グループがちょっとうらやましい
なんせテントといってもティピーという本格派の彼ら。現地で合流した仲間達も含めると総勢8人の大所帯です。なお、シェフの鴨川さんはじめ、漢方の先生などもフェス仲間にいるため、夜は本格的なフレンチから、二日酔いの朝は漢方スープまで、充実したフェスめしが堪能できるのだそう。う、うらやま!
▲駐車場からのシャトルバス待ちが半端なかったので歩いて移動。途中でビールまでご馳走になってしまう
▲朝霧名物の急坂。バイクなら会場近くまでベタ付けできるんですけどねえ
▲というわけでチケットを持っていなかったのにリストバンドをゲット!
▲未舗装路に対応したキャリーが必要な朝霧の過酷なロードコンディション。砂煙もすごい
▲先に到着したフェス仲間と合流して、ティピーを建てます。すごい
▲テントとティピーをタープでつないで基地の完成。みんなでパチりんこ
ここまで来たら土屋さんも「どうせ寝袋も余ってるし、一緒にライブ観ていったら?」とお誘いいただいたのですが、その後、都内でつまんない用事があったためどうしても帰らざるを得ず、とりあえずFacebookでお友達になっておきました。
というわけでアクセスのみならず、フェス友達までできちゃったヒッチハイク(取材)。逆に言えば、乗っけてってもらって現地で「はい、サヨウナラ」だと殺伐としすぎ。せっかく生まれたご縁ですもの、その後もゆるゆるとお付き合いをする覚悟で臨んだ方がきっと楽しいはずです。
しかしながら、もちろんヒッチハイクにはそれなりの危険が伴います。特に女性は1人でもグループでも、リスクと対策をしっかり考慮した上で実行しましょう。今回は最終手段として考えていましたが、SNSをうまく利用して、シェアライドさせてもらう人たちを探してもよいかもしれませんね。もっともその場合は交通費を割り勘するなどの負担もお忘れなく。
あー、でも朝霧、最後までいたかったなー。
text & photos:熊山准
2015年10月10日(土)
2015年10月11日(日)
会場:静岡・富士宮市 朝霧アリーナ
<関連リンク>
朝霧JAM – It’s a beautiful day