【まもなく初来日】ノルウェー出身の重低音系美メロ職人、カシミア・キャット。
カタログ大好きな典型的日本人の筆者は、ついつい音楽をジャンル分けしたくなってしまうタチである。CDショップで「冬の乾いた空気感にピッタリ。ポストロックとの邂逅」や、「渋すぎるサウンドにあなたも骨抜き!サザンロック特集」などの煽り文句を見ると心が躍る。そんなわけで、トラップともフューチャー・ベースとも解釈できるカシミア・キャットのサウンドは、大いに筆者を悩ませた。一体どのように紹介して良いものかと、ジャンル分けしたとして、この記事を読んだ方が違った印象を持ったらどうしようかと・・・。重いビートや、連続するスネアの使い方はまさにトラップである。だが、品の良いおもちゃ箱のようなサウンドプロダクションは、間違いなくフューチャー・ベースのそれなのだ。そもそも「フューチャー・ベースはトラップに内包される音楽である」という見方もあり、まだまだ曖昧なところも多い。そのため、ここではジャンル云々を結論付けるのは諦めることにする。このあたりはアーティスト本人に任せよう。あるいは、みなさんの耳でご判断いただきたい。
こちら、カシミア・キャット名義(DJ FINALと名乗っていた時期がある)のファーストEP、“Mirror Maru”から。
Mirror Maru
鈍く響くベース、流れるようなシンセの音色、少々強めのリバーブ・・・。だいぶアクの強い音構造だが、しっかり成立している。音の広がり方はやはり北欧的だが、ところどころ黒いグルーヴを孕んでいるようだ。“DMC World DJ Championships”出身者(当時の名義がDJ FINAL)とあって、ヒップホップの精神も自身の体内で息衝いているのだろう。
2012年に発表されたこのアルバムは、各音楽メディアから高い評価を受け、耳早のリスナーの間で話題になる。2014年にはグラスゴーの人気レーベル、ラッキー・ミーから2枚目のEP、“Wedding Bells”がリリースされた。この中からも一曲、お聴きいただきたい。同アルバムのリードシングルである。
With Me
従来のポップネスはそのままに、こちらは少々難解さも伴っている。何というか、一気にラッキー・ミーっぽくなった。それでいて誰かのフォロワーになるわけでもなく、自身のオリジナリティーを追求しているようにも見える。ビートミュージックが飽和状態の昨今、ニッチのありかを模索する彼の姿勢は評価されて然るべきだろう。彼の音楽をジャンルで分けることが出来ないのは、彼自身が新たなシーンの旗手になりうるということかもしれない。少々強引な言い方だが、可能性はあるだろう。
プロデューサーとして
実は裏方としても優秀である。カニエ・ウエスト、キッド・インク、アリアナ・グランデ、アッシャー・・・。共に仕事をしたアーティストは数多く、プロデュースを手がけた中にはビッグネームもちらほら。アリアナには“Be My Baby”を提供しているが、この曲は彼の色が濃く出ているように思う。
Be My Baby
最近ではタイ・ダラー・サインやG・イージーの楽曲のプロデュースにも関わっており、大いに活躍の場を広げている。やはり当人たちは彼の「黒さ」に敏感に反応するらしく、ヒップホップの畑からもラブコールが相次いでいるようだ。
Drifting ft. Chris Brown, Tory Lanez
リミックス職人として
更にリミックスの腕もすこぶる良い。ここまで来ると、むしろ何が出来ないのかを問いただしたくなるところだ。あまりに数が多いため、全てを網羅するのが難しく、ここでは先日公開された音源をピックアップしよう。以前から自身のDJプレイには組み込まれていたが、満を持して公式に発表された。原曲はラッキー・ミーの先輩にあたるハドソン・モホークのナンバー。
Forever 1 (Cashmere Cat Edit)
ハドソン・モホークによる原曲も素晴らしいが、こちらのリミックスも相当な質の高さだ。この音源が公開された当初、ネット上で「ハドソン・モホークって二人いるの?」なんて囁かれた程である。この極上のチルアウト感。ここまで散々ビートを強調したきたが、メロディセンスも卓越している。この曲、彼のプレイではオープニングで使われることが多いが、エンディングに持ってきても面白そうだ。
日本での知名度はまだまだ低いが、既に海外では次代を担うDJ/プロデューサーとして認知されている。来日公演後には、マッド・ディセント(ディプロが主宰のレーベル)による香港のEDMパーティーへの出演が決まっている。文字通り、各所から「引っ張りだこ」のカシミア・キャット。この機会にぜひ、彼のサウンドに触れてみて欲しい。