【ライブレポート】ディスコの権化、今再びの全盛期へ。【CHIC Featuring NILE RODGERS】
ジャネット・ジャクソンの来日公演のすぐ後で、シックがジャパン・ツアーを決行した。両者の来日が続いたのには何か運命的なものを感じる。共に昨今の音楽シーンで再評価がなされ、トレンドの最先端に返り咲いたアーティストだ。
ジャパン・ツアーより前の11月末にあった、香港の音楽フェス『クロッケンフラップ 2015』にもシックは出演していたが、こちらでも大いに会場を沸かせていた。このフェスはストリーミング・サービスが充実しているので、日本にいながら現地の様子を楽しむことが出来る。経済的に余裕のない筆者のような若輩者にはありがたい。で、ここでのシックときたら、そりゃあもう大暴れであった。そこらの若手バンドが真っ青になるほどの現役ぶり。会場のオーディエンスも狂喜乱舞しており、シックの面々もご機嫌である。・・・大丈夫なのだろうか。彼らに日本公演分のエネルギーは残っているのだろうか。過密スケジュールなどお構いなしに奮闘するバンドの姿を目の当たりにし、少々不安な気持ちになっていた。いや、もっと正直に告白しよう。彼らの体力の消耗を案ずると言うよりは、「に・日本公演の前にこんなに楽しそうにプレイするなんて・・・!」と、半ば嫉妬の炎に焼かれながらPCのディスプレイを観ていた。
何せ、この規模である。
Zepp DiverCity
とは言え、ナイル・ロジャースがそんな狭量なアーティストなはずもなく、やはり圧倒的なステージングを見せてくれた。数日前の愚かな嫉妬心に塗れた自分を呪いたい。筆者は最終日に観に行ったが、日本でのライブも3日目だというのに、全く手を緩めることはしなかった(良い意味で「抜け感」はあったが)。実に、鮮度の高いライブだった。
ダフトパンクとの“Get Lucky”以降、ナイルの実績が再評価され始めているのは言うまでもないが、彼自身も最近はそれを自覚しているようだ。
「僕は何度か日本に来ているけれど、あなたたちの中には、今日初めて僕と会う人もいるだろう。でも、多分僕たちはどこかで会っているはずさ。ダイアナ・ロスもデュラン・デュランも、マドンナやアヴィーチーだって、僕と一緒に曲を作ったんだ。そのうちのほとんどがNo.1レコードだぜ」
これは彼のステージMCの一部だが、何とも今更である。それでも、このセリフには全く嫌味がなかった。明らかに過小な評価を受け続けてきた彼が言うからなのか、むしろこちらの胸もすっとした。そして、そこから幕を開ける超豪華ヒットナンバーの大盤振る舞い。まさに先のMC通りのパフォーマンスだ。あなたこそがダンス・ミュージックの、いや、ポップ・ミュージックの権化だ。
“I’ll Be There”の演奏直後、再びのMCで“Get Lucky”の誕生秘話を語ってくれたのだが、これがまた熱かった。
「数年前、僕は自分がガンに罹っていることを告げられた。家に帰ってからは、そりゃあもう泣いたよ。それがきっかけで、僕は少しでも多くの曲を作ろうと決心したんだ。そんなときに、フランスから電話がかかってきたのさ」
こんな話を聞いたら、今後どのように“Get Lucky”を聴けば良いのか分からない。以前まではダフトパンクによるディスコシーンへの賛歌だと解釈していたが、今はそれに加えて、歌詞の節々にナイルの情念を感じる。特にこの一節。
We’ve come too far
to give up who we are
So let’s raise the bar
and our cups to the stars
シックのヴォーカル
筆者はノーマ・ジーン・ライトの最盛期を知らない。もちろん、“Dance Dance Dance”や“Everybody Dance”の音源は持っているし、彼女の歌声は大好きだ。それを踏まえた上で言いたいのだが、シックの声と言えば、今やKimberly Davis(キンバリー・デイヴィス)とFolami(フォラミ)の二人なのである。フォラミがリード・ヴォーカルを務めた“I’m Coming Out”、キンバリーが歌う“Get Lucky”、どちらも素晴らしかった。個人的な好みを言わせてもらえば、キンバリー・デイヴィスは女性として見てもドンズバストライクである。もうメロメロ。ネットで画像検索しちゃうぐらい好き。ソウルフルな歌声のみならず、体のキレや、ふとした仕草に至るまで、彼女の一挙一動に終始釘付けであった。ナイルのギターそっちのけで、目をハートにする瞬間さえあった。こんなに熱を上げるのは、シスター・スレッジのキャシー以来かもしれない。大胆不敵にも一つだけ難癖を付けるとすれば、もう少しメイクは薄いほうが可愛い。
Good Timesの「現在」
そして忘れてならないのが、“Good Times”だ。今回の来日公演で最も盛り上がったのはこの曲だろう。「ヒップホップの歴史はここから始まったんだ!」というナイルのMCを合図に、彼が自らギターをかき鳴らす。イントロのカッティングを聞いただけで、オーディエンスは歓声を上げた。1979年にリリースされた曲だとは、全く思えないフレッシュネス。圧巻だったのは、ギターのナイルと、ベースのジェリー・バーンズによる「ソロ対決」だ。一方が超絶カッティングを披露したかと思えば、もう一方はグルーヴ感溢れるベースラインで応戦する。そもそもベースとはリズムを刻むものではなかったのか・・・。多くの若手ベーシストが目指す境地がそこにあった。
更に、この日の“Good Times”はこれで終わらない。MCにあった「ヒップホップの歴史」というのは、明らかにシュガーヒル・ギャングによる“Rapper’s Delight”のことを指しているが、何とナイル自身がこの曲のフロウをかましてきたのだ。筆者の周りの大人たち(特に80’sに青春を送った方々)は、みんなこの曲を愛している。文字通り、ヒップホップにおける最重要クラシックである。2015年、このタイミングで、この内容。新曲の“I’ll Be There”でシックの過去と現在を繋ごうとしたように、彼らの意図はいよいよ明確である。ますます新作アルバムの“It’s About Time”の完成が楽しみだ。レコーディングに呼ばれているアーティストの名前を見ても、この作品が、近年の音楽シーンにおいて一大トピックになることは間違いない。今回の来日公演は、「シックの現在地」を知る意味で、あまりにも重要であった。
2015年12月1日(火)
会場:大阪・ZEPP NAMBA
2015年12月3日(木)
2015年12月4日(金)
会場:東京・ZEPP DIVERCITY TOKYO
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CHIC Featuring NILE RODGERS