【祝・再来日】D’Angeloのルーツを探る。
ケンドリック・ラマーがグラミー(主要部門)を逃し、ネット上では落胆の声が散見された。今年こそは当確だろうという見方が多くあっただけに、この結果に異論がある人も少なからずいるようだ。授賞式でのパフォーマンスも、彼が群を抜いていた。確かにテイラー・スウィフトの活躍ぶりも相変わらず凄まじく、個人的には彼女が称賛されることに対しては何も異論はないのだが、やはり今回はケンドリックが最高位の名誉を受けて欲しかった。それぐらい“To Pimp A Butterfly”が打ち立てたものは大きい。
ケンドリックだけではない。昨年のブラック・カルチャーの勢いは凄まじかった。必ずしも一枚岩というわけではなかったが、そこかしこで大きな動きがあった。映画界隈では『グローリー』が大いに称賛され、社会では2014年の『#blacklivesmatter』運動が尾を引いていた。それらに呼応するように、黒人音楽は猛威を奮っていたように思う。そして、それを私たちにリアルな感覚で伝えてくれたのはディアンジェロだった。昨年のサマソニ後、または彼の単独公演の後、ブラック・ミュージックの深淵に触れようとした人はきっと多いだろう。筆者もその一人で、改めて彼が身を置く「ネオ・ソウル」という音楽に注目してみた。
ネオ・ソウル
そりゃあ、ディアンジェロが来日する前から彼の音楽は聴いていたし、「ネオ・ソウル」というジャンルの存在は知っていた。サマソニのライブレポートでも、「『ネオ・ソウル』は、既存のブラック・ミュージックを継承したもので~」なんて書いた。だが、それが具体的にはどのようなもので、そのサウンドにどのような背景があるのかについては、正直なところあまりよく分かっていなかった。今度こそ中身の伴った文章にしたいのだが、まずは音源を聴いていただきたい。
Devil’s Pie
Untitled (How Does It Feel)
二曲とも、ディアンジェロのセカンドアルバムにして最高傑作、“Voodoo”に収録されている。ネオ・ソウルの定義は、かねてより様々な音楽評論家が言及してきたように、「クラシックなR&Bに、多種多様な黒人音楽のエッセンスを盛り込んだサウンド」である。具体的に言えば、マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドが確立したソウル・ミュージックに、ヒップホップやファンクの要素を多分に持ち込んだような音作りだ。特に“Devil’s Pie”ではそれが顕著である。DJ Premierを呼んで作られた本作は、“Voodoo”の中でもかなりヒップホップに寄っている。打ち込みやサンプリングが多用され、それまでのR&Bとは明らかに違うことが分かる。音楽メディア(SPINなど)によっては、この曲を“Voodoo”の核とする見方もあるほど、当時としては新しかった。
だが、打ち込みを多用しただけでは、ネオ・ソウルの精神は完成しない。彼らは「楽器を演奏すること」にも並々ならぬ情熱を注いでいた。ジェームス・ブラウンやプリンスが築き上げた、「グルーヴの力」を頑なに信じていたのだ。その意味で、「『ネオ・ソウル』は、かつてのブラック・ミュージックから連綿と続く音楽」なのである。恐らく、昨年ディアンジェロのライブを体感した人は理解出来るはずだ。筆者のような若輩者でも、彼らのサウンドの背後には、大いなる歴史が存在することが感じ取れた。
「歴史」という観点で考えると、以下の動画が分かりやすい。
“Greatdayndamornin’”を除いて、ここで演奏される全ての曲が、偉大な先人たちのカバーである。ちなみにバックバンドはザ・ルーツのメンバーだ。
D’Angelo at AFROPUNK FEST 2014
余談だが、このネオ・ソウルの精神を日本のポップ・ミュージックに持ち込んだのが、ceroの“Obscure Ride”である。日本人の誰も踏み入れることが出来なかった領域に、彼らは深い理解と勇気を持ち、飛び込んで行ったのだ。昨年の日本における音楽シーンのハイライトは、この“Obscure Ride”と、ディアンジェロの来日公演だったことは間違いない。
奇跡の再来日
で、その衝撃を見逃した人たちにとっては、今回の再来日は朗報オブ朗報なわけだ。東京公演のチケットが既に売り切れていることからも、その注目度の高さが窺い知れる。サマソニ後、「奇跡」という言葉がそこらじゅうで使われたが、それは決して大仰な表現ではない。これも昨年ディアンジェロのライブを体験した人は分かるはずだ。だから、今回はむしろリピーターのほうが多いのではと思う。一度味わってしまえば、次を求めずにはいられない。最後にこの動画を紹介して、記事を終わろう。
Brown Sugar (Live at North Sea Jazz Festival 2015)
やっと残り1ヶ月か。実に待ち遠しい。
D’ANGELO JAPAN TOUR 2016
2016年3月28日(月)
会場:神奈川 パシフィコ横浜 国立大ホール
2016年3月29日(火)
会場:大阪 大阪国際会議場 メインホール
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ディアンジェロ来日公演 詳細