【PUNKSPRING 2016】 ポップ・パンクの雄、SIMPLE PLANの懐の深さ。 【単独公演も!】
海外の音楽事情が全く分からない中高生の頃、シンプル・プランが一筋の光明だった人は多い。ポップ・パンクの人懐っこさ、爽快なメロディラインには、言葉が分からなくても十分に心を動かされた。その後、歌詞を見ながらじっくり聴き込むようになり、楽曲が更に刺さるようになった。最たる例は“I’m Just a Kid”(デビュー・アルバムの“No Pads, No Helmets…Just Balls”に収録)。名曲が多い彼らのディスコグラフィだが、この曲に至っては、鬱屈した日々を送るティーン・エイジャーが漏れなく通過する道だと言ってよい。その証左に、下に貼ったMVのコメント欄には、ノスタルジーに駆られた文章が散見される。
I’m Just A Kid
だが、そんなキッズの支持率の高さとは裏腹に、理不尽な誹りを受けることも間々あるのだ。シンプル・プランを筆頭に、ポップパンクと目されるバンドは、往々にして「アイドル・バンド」と揶揄される。楽曲が聴きやすく、メンバーのルックスがそこそこ良い際にはこう呼ばれてしまうらしい。それに加えて、シンプル・プランの場合は日本側のプロモーションもまずかった。「俺たち★シンプル・プラン」という、どこに刺さろうしているのか分からないキャッチ・コピーを付けられてしまった過去がある。その節は申し訳ない。
最新作“Taking One for the Team”
彼らの凄さは、どれだけそのような揶揄を受けようとも、自身のスタンスを変えなかったところにある。デビュー・アルバムがリリースされてから、14年もこの路線で突っ走ってきた。しかもメンバーが一人も脱退することなく。これは今回共に来日するSum41にも、Face to Faceにも成し得なかったことである。メンバーチェンジをしないことがバンドの実力に繋がるとまでは言わないが、「変わらないこと」を美徳とする場合には、彼らは圧倒的に突出した存在だ。
彼らが如何に「変わらない」のか、音楽で確かめてみよう。上のI’m Just A Kid”と聴き比べてほしい。最新アルバムの“Taking One for the Team”から1曲。
Boom
豪華なカメオ出演陣(All Time LowやNew Found Gloryに加えて、PVRISなどの気鋭の若手バンドも登場する)に目を奪われがちだが、如何だろうか?14年を経ても全く色褪せないこのフレッシュネス。いつ聴いても、彼らはその新鮮さで以て私たちを迎え入れてくれる。その意味で、シンプル・プランの懐の深さは現行パンクシーンにおいて随一だろう。
「変わらない」というのは、あくまで「方向性」と「態度」の話であることを、ここで強調しておきたい。当然だが、彼らにも音楽的な変化はある。長くファンを続けている人は分かるだろうが、今回のアルバムはかなり挑戦的だ。何せ、今作にはパンクだけではなく「ファンク」の要素も多分に含まれている。ここ数年、ブラック・ミュージック的なアプローチがトレンドなのは間違いないが、まさかシンプル・プランまでこの手法を踏襲するとは思わなかった。かねてより、彼らは様々な形で音楽的なチャレンジを試みてきたが、恐らく今作がこれまでで最も深い。そして広い。こちらの曲には、それが顕著に表れている。
I Don’t Wanna Go To Bed
単なる真似事で終わっていないし、やはりこれまで築き上げたものを蔑ろにしているわけでもない。適所に置かれたホーン・セクション、うねるようなベースライン、そして瑞々しいピエール・ブーヴィエのヴォーカル。MVも適度にダサくて良い。何よりもこのポップネス。音楽の幅が広がっても、帰する所彼らはシンプル・プランなのだ。オールドファンはもちろん、新規のリスナーにさえも訴えかける準備は出来ている。
最後に個人的な願望を言わせてもらえば、“I’m Just a Kid”は単独公演のアンコールではなく、大きなステージで聴きたい。