サマソニ裏方論 制作編 「照明やステージセットは音源では味わえない、ライブならではの楽しみです」
フェスはアーティストだけでなく、たくさんの裏方スタッフの働きがあって形作られていきます。そんな裏方さんのお仕事にスポットを当てるこの企画、第2回の裏方さんは亀迺井(かめのい)謙さん。制作部部長と大阪会場の総責任者を兼任する彼に、制作のお仕事と大阪会場の魅力について、お話を伺いました!
ーーまず、亀廼井さんがご担当されているお仕事について教えてください。
亀廼井 現在は制作部部長と、大阪会場のクリエイティブマンの総責任者を務めています。じつは、大学時代からクリエイティブマンでアルバイトをしていまして、今年で入社から24年目になります。入社した頃はまだサマソニはなくて、月に1、2回ほど、1000人規模のイベントがあるかないかという時代でした。当時のシーンとしては、グランジが大きくなってきていて、クリエイティブマンではパンクですとかイギリスのバンドの来日公演を中心に扱っていました。この10年くらいは、自分は純粋な制作の仕事に専念していますが、昔は来日したバンドのアテンドもしていたし、ケータリングなども含めて、なんでもやっていました。
アーティストの希望を実現可能な形に調整する仕事
ーー具体的に”制作”とはどのようなお仕事なのでしょうか?
亀廼井 基本的には海外アーティストとやり取りをして、彼らの希望に沿えるよう、会場など含めて日本サイドの調整を行ないます。例えば、世界中を回るようなバンドの場合、彼らが希望する照明やセットの大きさが日本の会場サイズに合わないことがあります。そこで、彼らの意向を残しつつ、どういった形なら実現可能なのか、お互いに納得できる妥協点を調整していく仕事なんです。
ーー海外アーティストによる日本ツアーは、照明やセットはすべて自分たちのものを持ち込むのですか?
亀廼井 それはケースバイケースですね。持ち込むこともあるし、日本でのツアー用に制作することもあります。単独公演では、ある程度、アーティストの意向に対応することはできます。でも、サマソニではひとつのステージでたくさんのアーティストが出演するので、そのあたりの調整がすごく難しいんですよ。
ーーすべてのアーティストの意向を実現すると大変なことになってしまいますね。どのように対応するのでしょうか?
亀廼井 通常、各バンドの楽器や機材はライザー(※)と呼ばれる台に乗せ、出番前にステージ上に運び込みます。そこに乗るものが、アーティストごとに使い分けられる機材の基本となります。ですが、機材にこだわるアーティストの中には、ライザーに乗らないほど大きなセットを希望される場合もあります。その場合は、どのくらいの機材をどのようにしたら組めるのか、ヘッドライナーを中心にステージ全体の構成を考えるんです。あらかじめ天井の見えないところに吊っておくとか、前に出るバンドに泣いてもらって、ヘッドライナー用の機材を少し先に置かせてもらうとか。すんなりいかないことがほとんどです。
ーー今年出演するバンドの中で、とくに機材にこだわりがあるアーティストはいますか?
亀廼井 やはり、初日のヘッドライナーであるRADIOHEAD(レディオヘッド)ですね。あとは二日目のUNDERWORLD(アンダーワールド)でしょう。これから詳細を打ち合わせるのですが、彼らは普通の会場にはないような、とても高価な音響システムをオーダーするんじゃないかと思います。当日、演奏前にステージが急に狭くなったと感じたら、つまりそれはたくさんの機材が新たに組まれたということなんです。「ああ、スタッフが頑張っているんだなあ」と思ってください(笑) アーティストごとにステージ上に持ち込まれる機材にも注目して見てもらえたら、面白いかもしれませんね。
「今年から大阪会場がより開放感溢れる形に進化します」
ーー亀廼井さんは大阪会場の総責任者もされていますが、東京会場と大阪会場の違いを教えてください。
亀廼井 東京は会場全体のデザインやデコレーションに気を使っているのが特徴です。大阪は島が会場となっていて、ステージは4つと東京より規模感は少し小さい。ですが、1番大きいオーシャンステージと2番目に大きいマウンテンステージが共に野外ステージなので、会場全体に開放感があることが最大の特徴です。飲食エリアも、大阪の地元グルメが数多く出店しますよ。
ーー今年は、大阪会場は大きなリニューアルを行なうと伺いました。
亀廼井 ステージや飲食エリア、ゆったりできる休憩エリアなどをすべて海側に設定できるよう、現在調整中です。気持ちのいい海沿いを移動しながら、木陰でのんびり休憩できて、海の前でライブを見られるような形を目指しています。実現できれば、より開放感に溢れた新しい都市型フェスになると思います。
ーー大阪では、お客さんのノリやバンドのパフォーマンスにも違いはありますか?
亀廼井 なんだか大阪のお客さんの方が熱い感じかな。歓声が大きいように感じますね。基本的にどのバンドもベストな選曲で挑んでくるので、パフォーマンス自体は東京と大阪でさほど変わることはありません。でも、たくさん曲のあるバンドの中には、東京と大阪でセットリストを変えてくることもあります。
ーーでは、東京と大阪、2日連続で好きなバンドを追いかけるのもありですね。
亀廼井 そういう楽しみ方をしているお客さんもいると思いますね。東京と同じく、大阪会場もアクセスがすごくいいんですよ。ユニバーサルスタジオジャパンの近くなので、休みを少し長めにとって、サマソニを楽しんだあとにユニバーサルスタジオジャパンに寄るなど、関西遠征をするのもいいんじゃないですか。
ーーたしかに、毎年サマソニに行っている人は、大阪会場に行ってみるとちょっと見方が変わっていいかもしれませんね。最後に、今年のサマソニを楽しみにしている皆さんに、メッセージをお願いします。
亀廼井 ステージセットや照明の演出は、音源では味わえない生ならではのものなので、そのあたりの細かい部分も含めて楽しんでほしいですね。今年は出演者がとにかくいいので、誰を見ようか迷ってしまうかと思いますが、最後は自分の勘を信じて楽しんでください!
※ 機材を乗せるタイヤの付いた台のこと。舞台袖でこのライザーの上にドラムセットなどを組み、出番前にステージ上へと運び込む。
text:池田圭(verb) photos:くのまい
2016年8月20日(土)・21日(日)
東京会場:QVCマリンフィールド&幕張メッセ
大阪会場:舞洲サマーソニック大阪特設会場
SUMMER SONIC 2016