サマソニ裏方論 邦楽アーティストブッキング編 「すでに、来年出てほしいと声をかけているアーティストもいますよ」
フェスはアーティストだけでなく、たくさんの裏方スタッフの働きがあって形作られていきます。そんな裏方さんのお仕事にスポットを当てるこの企画、今回お話を伺ったのは邦楽部・部長の長嶋誠志さん。2004年から邦楽アーティストのブッキング担当している長嶋さんに、アーティストのラインナップが決まるまでの裏話を伺いました。
――長嶋さんはクリエイティブマンに入る前は、どのようなお仕事をされていたのですか?
長嶋 元々はパルコの音楽事業部で主にプロモーション業務に携わっていました。クリエイティブマンには2004年に入社しました。もともと洋楽中心の会社ですが入社後に邦楽専門のセクションが立ち上がって現在に至ります。自分は元々インドア派で、フェス行くよりアナログ漁りに行くタイプだったんですけど。
――邦楽部とは、普段はどのような仕事をしているのでしょう?
長嶋 普段はプロモーションやライブ制作をメインに、日本人の海外公演などを手がけることもあります。2007年、2008年あたりから、サマソニに出演した日本人アーティストに海外から声がかかるようにもなってきました。PuffyやPOLYSICSから始まって、そのあとはサマソニをきっかけにマキシマム ザ ホルモンとエンター・シカリの日英でのツアーが決まったのはでかかったですかね。そのあたりはBABYMETALやONE OK ROCKが現在海外でも高く評価されている状況に繋がっていると思います。サマソニに関していうと、邦楽アーティストのブッキング他全般を担当しています。
ラインナップはヘッドライナーから逆算して決まる
――フェスでは日本人アーティストと海外アーティスト、どちらからブッキングを進めるのですか?
長嶋 やはり、まずはヘッドライナーが決まってからフェス全体のアーティストラインナップの方向性が決まります。UKのバンドがトリか、アメリカのR&B系がトリかでも、ラインナップは大きく変わるわけです。今年でいうと、まずはレディオヘッドが決まりまして、彼らと一緒に見せたい日本のバンド、サカナクションも[Alexandros]も出したいし、という流れで決めていきました。同じようにステージごとにヘッドライナーにテイストを合わせて1日を構成しくことが多いです。反対にUnderworldがヘッドライナーの日は、星野源やゲスの極み乙女。、昨年はオープニングアクトだった水曜日のカンパネラを思い切ってメインステージに抜擢したりと、オーガナイザーの清水社長の意向も受けながらあえて振れ幅のあるラインナップを意識しました。
――どのくらい時間をかけてブッキングは進められるのですか。
長嶋 例えば、ゲスの極み乙女。は、ブレイク前からアプローチをしていたものの毎年なかなかタイミングが合わず、今年ようやく出演して頂けることになりました。今年のサプライズのひとつ、和田アキ子さんも昨年暮れくらいには相談を始めてましたね。一年中これだけ邦楽のフェスが増えてきてるので、とくに大物アーティストやどうしても出てもらいたいアーティストには以前より早めに声をかけることが多くなっているかもしれません。もちろんまだ発表はできませんが、もう来年や再来年出てほしい人たちの中には先手を打って交渉しているアーティストもいますからね。
振れ幅の大きさはサマソニならではの魅力
――ラインナップを考えるときには、どのようなことを重視されるのですか?
長嶋 話題性はもちろん意識しています。今までフェスには出たことがないとか、話題の新人であるとか。今後サマソニをきっかけにステップアップしてほしいアーティストもピックアップします。毎年マストというわけではないのですが、2008年に小泉今日子さんに出演頂いたくらいから邦楽のサプライズ的な枠も恒例になってきました。一昨年はTOKIO、昨年でいえば郷ひろみさん、華原朋美さんなど。でも、話題性だけを狙っているのではなくて、音楽的なバックグラウンドにも基づいたセレクトなんです。今年でいえば、和田さんはオリジナルソウル的な、ビルボード系のブラックミュージックのアーティストへの対抗馬的に考えた側面もあります。Radio Fishも音楽的に旬なタイミングだったからこそ出演が実現したと思ってます。
――アイドルでもメジャーな方でも、いい音楽にジャンルは関係ないと。
長嶋 そうなんですよ。僕が入社した頃から比べると、ラインナップの振れ幅がずいぶん広がったなと感じます。当時はJ-POP寄りの邦楽アーティストが出るだけで、コアな洋楽ファンからの風当たりが強かったこともありました。でも、サマソニでも最初は小さいステージに出てもらっていたももクロやBABYMETAL、でんぱ組.inc等は今では当たり前にいろんなフェスに出るようになったり。アイドルのファンがフェスに来るようにもなったし、洋楽/邦楽のロックファンもメタリカとBABYMETAL、ラスベガスやSiMとでんぱ組.incを一緒に聴いたり。相乗効果というか、幅が広がったことは単純によかったなと思います。
――テイストが近いアーティストや音源で競演している日本人アーティスト同士が同じ日に組まれていると、こちらとしてはもしかしたら同じステージに出てくるのでは?という期待感もありますが。
長嶋 事前にこちらから共演を頼むことは双方に負荷がかかるので基本的にはあまりありません。お客さんのことも考えて同じ日にブッキングして、もしも本人達のタイミングが合うならっていうくらいです。でも僕らも知らないうちに突発的にステージに出ていたりすることもあって。やはりそこはライブならではですよね。
アーティストとお客さんのメリットを考える
――他にラインナップを決める際に意識されていることはありますか?
長嶋 ステージごとにカラーをある程度はっきりさせることと、同じテイストのアーティストが裏被りしないことです。本当はこっちも見たいのに、時間が被っている!となってしまうと、アーティストにとってもお客さんにとってもメリットがないですし。なるべく近いテイストのアーティストは続けて見られるようにしています。
――好きなアーティストのあとに知らない名前があったら、続けて見ることも新たな発見になりそうですね。最後に、今年ブッキングを手がけられた中でも特にステージを楽しみにしているアーティストはどなたですか?
長嶋 なかなかフェスに出ない人は楽しみですね。Acid Black Cherry、和楽器バンド、清木場俊介さん等、フェスではあまり見られないラインナップですから。あとはMISIAやflumpool等、大阪にしか出演しないアーティストもどんなパフォーマンスをするのか、こっそり楽しみにしています。自分は東京担当で見られないのですが、まだ未発表の中に楽しみなアーティストもいますよ。皆さん、ぜひチェックしてみてください!
text:池田圭(verb) photos:くのまい
2016年8月20日(土)・21日(日)
東京会場:QVCマリンフィールド&幕張メッセ
大阪会場:舞洲サマーソニック大阪特設会場
SUMMER SONIC 2016