ポーター・ロビンソン単独公演レポート【サポート・アクト:Cherub】
ソニックマニアの興奮が冷めやらぬまま、早くもポーター・ロビンソンの単独公演が開催された。サポート・アクトは、エレクトロ・ポップ・デュオのCherub。会場は恵比寿のリキッドルームだ。幕張で観るよりもずっと近くで彼らのステージを堪能できる。そのせいか、並々ならぬ緊張感を抱きながらライブ当日を迎えた。受付の奥に備え付けてあるソファに座り、「Sad Machine」を聴いているが、早くも泣きそうである。開演前にも関らずこの有様だ。昂ぶる気持ちを抑えつつ、ステージ最前列へ。そこでは、会場BGMとしてマデオンの曲が流れていた。どこまでも粋な男である。そして定刻通り、サポート・アクトのCherubが舞台に登場する。
Cherub
下品を極めたようなミュージック・ビデオとは裏腹に、とても真摯なパフォーマンスを展開していた。CD音源はエレクトロの要素が強いが、ライブではバンドのエモーショナルな部分が前面に出る。さすが音楽産業の街、ナッシュビルのアーティストだ。ツボをよく心得ている。ツイン・ギターでここまで重厚なサウンドを鳴らすとは。エフェクターを巧みに操りながら、変幻自在に音の姿を変えてゆく様はロイヤル・ブラッドに共通する。自由な編成のグループがこれだけ多い昨今、いよいよバンドの典型が無くなりつつあるのだと実感する。もちろん、Cherubのように抜群のテクニックを持っていなければ成立しない話だが。加えて彼らは、「Chocolate Strawberries」や「Doses & Mimosas」など、キラーチューンになり得る楽曲も既に持っている。クオリティの高さは今回のライブで十分に伝わった。話題性だけではなく実力でも十分に勝負できるだろう。ポーター目当てのお客さんで会場が埋まる中、しっかりフロアを沸かせて帰って行った。
Porter Robinson
いよいよ真打ちの登場である。彼の端正な顔立ちが、よりはっきりわかる近さだ。ステージに上がった瞬間から、少年のような笑顔を見せる。それに呼応するように、オーディエンス側は早くも熱を帯び始めた。女の子の黄色い歓声と、男どもの野太い声が入り混じる独特な空間だ。性別に区別なく、彼の音楽は人の心に刺さる。そう、「刺さる」のだ。そこが他のパーティー重視のEDM系プロデューサーと大きく違うところである。ポーターもEDM界隈から台頭したアーティストではあるが、この作家性とインテリジェンスは、もはやダンス・ミュージックの文脈だけでは語りつくせない。ライブではそれが顕著に現れる。楽曲単位の魅力も素晴らしいが、彼のナンバーはそれぞれが連鎖的にコネクトしてこそ真価を発揮するのだ。「Sad Machine」から「Flicker」に繋がる部分では、等身大の自己を表現し、匿名性の高い映像で以って私たちに訴えかけてくるのである。より普遍性を備えて迫ってくるのだ。映像に出てくるキャラクターのほとんどは、顔のパーツのどこかが欠けている。それが単なる遊び心だけではなく、強いメッセージ性を感じさせるのだ。ここへ来て、同じく匿名性の高いボーカロイドを使う理由もようやくわかった。
「Easy」や「Fellow Feeling」では、二面性や葛藤をも見せてくれる。前者は「Worlds」のリリースより前に発表された曲だが、何の違和感もなくこの世界観に顔を出す。フロアを沸かすキラーチューンとしての側面もあり、大変優秀なトラックだ。そして二面性を語る上で不可欠なのが、後者の「Fellow Feeling」である。意味深なモノローグと、時折映像に出現する「鉄コン筋クリート」のイタチらしきキャラクターが、その証左だ。本当にこの映画までチェック済みだとすれば、いよいよマニアの域を脱するところだが、ポーターならば十分にあり得るだろう。攻撃的なサウンドの効果もあり、この曲のパートでは彼の陰の部分を見た気がする。そして、そんな一面を見せた後で、とある日本アニメの台詞を臆面もなく引用するのだ。
「散りなさい、飢えた狼ども。あんた達、大人しくしないとすごいことするわよ。私達、いい友達になりそうね」
これは「あの夏で待ってる」の女性キャラクター、山乃檸檬のセリフをコラージュしたものである。この段階でこの展開。もうイチコロだ。どうぞお友達になってください。驚くべきは、このパフォーマンスが決して日本仕様ではないことである。先のアメリカ公演でも、徹底的に日本のサブカルをサンプリングしているのだ。どこぞの広告代理店よりも、よっぽど日本文化のPRに寄与している。当の日本人としては、ラブレターを一気に数十通もらった気分である。この高すぎる濃度こそが単独公演の醍醐味であり、ファンにとっては至福の時間だ。ソニックマニアとはまた違った趣の素晴らしいパフォーマンスだった。こんなに日本を愛してくれて、どうもありがとう。私たちの方こそ大好きです。
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