『夏フェス革命』著者レジーに聞く「サマソニとフジロック」「これからのフェス」
すっかり夏の風物詩として定着した夏フェス。
昨年末に刊行された『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー』の中では最大規模の邦楽フェス、ロック・イン・ジャパンを例に夏フェスと社会、音楽シーンの変遷が綴られています。
しかし、それはサマーソニックやフジロックと言った洋楽を中心としたフェスにも当てはまるのか? 本書ではあまり触れられていない洋楽フェスについて、そして今後のフェスの行方について、著書であるレジーさんにお話を伺いました。
会社勤務と並行して2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が話題に。現在の主な寄稿媒体は「Real Sound」「MUSICA」「M-ON! MUSIC」など。ツイッターアカウント @regista13
洋楽フェスは「どういう音楽をプレゼンテーションするか」
ーーーレジーさんの著書『夏フェス革命』の中ではフェス主催者側が想定しなかったような楽しみ方をお客さんが見出し、それを主催者側も受け入れて承認していくような流れを“協奏のサイクル”として提示し、その例としてロック・イン・ジャパンのこれまでの歴史を振り返っていましたよね。
ロック・イン・ジャパンを取り上げた理由は僕が初年度から毎年参加していたことが大きいんですが、この本の主題になっている“協奏のサイクル”が特に見えやすいフェスだからというのもあります。ロック・イン・ジャパンはコアな音楽好きだけでなく、音楽に強いこだわりはないけど楽しいことが好きというような人たちとともにフェスのあり方を変化させているのが興味深いと思い、そんな変遷にスポットを当てました。
ーーーその結果、27万人以上を動員する大型フェスになっていったのだと思いますが、サマーソニックやフジロックのような洋楽系フェスの場合にもこれは当てはまると思いますか?
どちらのフェスにおいても、ロック・イン・ジャパンに顕著なホスピタリティの充実や「レジャーとしてフェスを楽しむ人たち」の取り込みが進んでいる印象があるので、当てはまる部分はあると思っています。一方で、サマーソニックやフジロックのメインの顧客層は今でもやっぱり“海外の音楽を好きな人”だと思いますし、そういう人たちはフェスがどんな形になろうが「チャンス・ザ・ラッパーが来るから見たい」「ケンドリック・ラマーとボブ・ディランが来るのを見たい」というモチベーションで会場にやってくると思うので、そんな人たちに対して「どういう音楽をプレゼンテーションするか」ということを考えるのに重心を置いているのかなと感じます。もちろんロック・イン・ジャパンにもそういう考え方はあると思うんですけど、参加している印象としては、アクトの並びと同等かそれ以上に会場全体での体験を重要視しているような気がしています。
ーーーレジーさんは今年のサマーソニックをどのようにみていますか?
自分の中ではサマソニに対してスタート時の「都市型の“ロックフェス”」いうイメージが今も強いので、今年のノエル・ギャラガーとベックというトリの並びは去年のカルヴィン・ハリスよりもしっくりくるようにも思います。そういう大御所的な人がいるうえで、チャンス・ザ・ラッパーっていう今のトレンドの人が出るのも良いなと。
ーーー個人的に注目しているアクトなんかはいますか?
サマソニ本編ではないんですが、フライング・ロータスやサンダーキャットがまとめて観られるソニックマニアはすごく行きたいなと思いました。あと、僕はオアシスど直撃世代で、2005年のサマソニでの「Don’t Look Back In Anger」の合唱を体験してすごく感動した記憶もあるので、やっぱりノエルは気になります。あとビーチでカマシ・ワシントンが聴けるっていうのもすごくいいですよね。
邦楽だと、ライブのクオリティが本当に高いSKY-HIが洋楽ファンの多いフェスでどんなふうに受け入れられるかっていうのは興味があります。あとはiriとか女性R&Bシンガーも最近気になっているので、この辺りもフェスでのライブを見てみたいですね。
ーーーではフジロックはどうでしょうか?今年は邦楽アクトがかなり増えていますが。
いろいろ背景があるとは思うんですが、参加者の高齢化が進む中で新陳代謝を進めるために毛色の違うアクトを出しているというのもあるのかなと見ています。日本のバンドが好き、かつ場所とか金額とか含めてフジロックに高いハードルを感じている、そんな若年層を意識して日本のアーティストを出しているのかなと思いました。
ーーーでは今年邦楽アクトの増えたフジロックは若い世代が増えるとみていますか?
どこまで顕著に効果があるかわかりませんが、たとえばマキシマム ザ ホルモンのことを好きな若い人がフジロックに来る、みたいなケースはきっとあるのかなと思っています。
ーーーそれきっかけに新しい層がどんどん増えていくといいですよね。
そうですね、日本のバンド目当てでフジロックに行った若い層にとって新しい体験になるといいなと。ただ、それ以上に僕が期待したいのは逆のベクトルというか、フジロックにいつも行っていて、聴く音楽は海外のもの中心、といった人たちがたとえばエレカシのライブを見て感動する、というようなケースですね。コアなフジロック参加層の邦楽アクトに対する意識が変われば、フジロックとしてもこの先アクトの選び方にもっと柔軟性が持てるのではないでしょうか。
それに洋楽を中心に聴いてる人がフェスで日本の人気のあるバンドに触れて、「日本の音楽もいいのはいいよね」って思い直すことは日本における海外の音楽を取り巻く環境にとってもすごく大事な気がするんです。そうなることで、もっと日本のバンドと海外のバンドの対バンとかもできるようになるかもしれないし、それでワンマンだと来づらいアーティストも呼べるようになるかも…とか色んな可能性が出てくると思うので、そういう風穴を開けるきっかけになるといいなと個人的には思います。
レジャーとしてのフェス
ーーー本の中では夏フェスが夏のレジャーとして定着していく背景も解説されていますが、この部分はサマソニやフジロックも当てはまる部分はかなりありますよね。
そうですね。ただ、「レジャーとしてのフェス」というとファッション誌に出てくる「若者の遊び」の様なものの方がイメージしやすいと思いますし、僕もそういう意識が強かったんですが、この先は「家族のレジャーとしてのフェス」や「高齢者のレジャーとしてのフェス」というような考え方が広まっていってほしいなと個人的には考えています。いわゆる「若者」ではない人たちがその人たちなりのスタイルでフェスを楽しめるようになればいいなと。
ーーー確かに家族向けのレジャーとして、フェスが果たす役割は大きくなりましたね。
そう思います。フジロックが2016年から公開している「こどもフジロック」というページでは、ライブにこだわらずに子ども連れで楽しむフェスのあり方を訴求していますよね。「子どもができたからもうフェス行けないよね」っていうのは、主催者と参加者双方にとって不幸な気がしますし、「家族のレジャーとしてのフェス」が浸透していけばもっと多くの人がフェスの楽しさに触れることができるんじゃないかと。
僕は去年フジロックに2歳半の子どもを連れて行ったんですけど、行ってみて思ったのは、「別に行けないことはない」ということです。タイムテーブルを急ぎ足で追いかけるような楽しみ方は無理ですが、行ってなんとなく会場の雰囲気を楽しむことは出来る。去年は大雨でしたがそれでも何とかなったので、もちろん子どものタイプにもよりますが、あまり気後れすることもないのかなと思っています。
ブログ更新。1週間前はまだ苗場にいたのかーと思いながら書きました/ レジーのブログ LDB : 【子連れフジロック備忘】家族で苗場に行った話 https://t.co/HfpoK6jWZR
— レジー (@regista13) 2017年8月6日
ーーーフジロックだけでなく、どのフェスもキッズエリアとかファミリーに向けたホスピタリティーは年々充実しているのでこれから増々家族向けレジャーとしては定着していきそうですね。
フェスの楽しみ方を知っている人たちの年齢層が高くなっていますし、あと世の中的にも「音楽に詳しくなくてもフェスは楽しめる」ということが浸透しつつあるので、この流れはさらに進むと思います。そういう「音楽を聴かないフェスの楽しみ方」についてどう思うかというのは人によって違うと思いますし、僕も以前は「マジ音楽聴かないやつ来んなよ」みたいな感情もありました。『夏フェス革命』の行間にもそういう嫌悪感が微妙ににじみ出てるって言われるんですけど(笑)、本を書き終わった今はもう少しフラットな気持ちになっています。
ーーーフジロックに関していうと前々からレジャー的な傾向はありましたよね。「フジロッカーを極めれば極める程、ライブは観ない」みたいな…。
それがフェスの楽しみ方だということを日高さん(フジロックを主催する株式会社スマッシュ社長)も発信していて、その考え方が浸透しているというのはとても興味深い話だなと思っています。「自分がアーティスト側だったらどう感じるかな?」なんてことも思いつつ、そういう空間で演奏すること自体の楽しさもあるんだろうなと。
日高さんの本を読むと「そもそも金曜日に毎回フジロックやるのは、平日に普通に会社を休めるような社会を作るため」みたいなことが書かれていて、単に音楽の楽しみ方を越えて、余暇の使い方やお金の使い方に一石を投じるものにしようとしているのがうかがえます。「ロックフェスが社会そのもののあり方にアプローチする」という取り組みは音楽ファンとしてはわくわくしますし、時間がかかっても何かしらの成果が出てほしいなと思っています。
これからのフェス
ーーー今後のフェスの形についてお伺いしたいのですが、『夏フェス革命』の中ではその一つとしてVRについて触れていましたよね。
VRやARといったテクノロジーは、ちゃんと広がっていけばライブやフェスというものの楽しみ方を広げてくれるんじゃないかなと期待しています。
ーーーでも、そうなると会場に人が来なくて運営側が困るといったことは起きたりはしませんか?
おそらく、どんなにテクノロジーが進歩しても、ライブやフェスを現場で楽しみたい人はいるんじゃないかなと思っています。そのうえで、たとえば有料のVR視聴があったりすれば、むしろ収益が純増する可能性もありますよね。もちろんこの辺はVR端末がどこまで広がるかとか、2020年頃に実用化されると言われている5G(第5世代移動通信システム)の状況とかによる部分が大きいですが。
ーーー今よりも精度が上がればVRの方がいいって人もでてきそうですね。
夏っぽい雰囲気には興味ない、音楽をちゃんと聴きたい、みたいな人にとっては、臨場感のあるVRでのライブ体験ができるのであれば、「涼しい部屋からフェスに参加する」という選択肢が重宝されるかもしれないですね。
ーーーこれは最近良く聞くのですが、今フェスが増え過ぎているという声も聞きます。レジーさんはどう思われますか? これから淘汰されていくのでしょうか?
淘汰のフェーズは一度越えたんじゃないかな、とは思っています。これは肌感覚の話でしかないんですけど、00年代後半から10年代前半ぐらいで「フェスやります」「人が入らないのでやっぱり中止します」って話をよく聞いたような気がしますが、最近は「4大フェスが好位安定」「より特徴がはっきりしたインディペンデントなイベントが各地で増加」という形でいい感じにバランスがとれてきているような印象を受けます。「フェスって儲かるらしいぜ」というノリで志なくこの市場に参入して失敗するんじゃなくて、ちゃんと適正規模を考えようという流れがあるのかなと。世の中的にも億万長者を目指すベンチャーじゃなくて、5、6人で自分たちの価値観が伝わる範囲でやっていく会社も多いじゃないですか。そういう傾向ともリンクしてるような感じはするんですよね。
ーーーアーティストなんかもそうですよね。
そうやってフェスのあり方が多様化していく中で例えば親子3代で来れるとか、いわゆる若者向けなユースカルチャーとは距離のあるフェスも、この先出来ていくのかなと思っています。面をとるフェスは今の4大フェスとロック・イン・ジャパンに比較的近しいラインナップの地方の大型フェスで十分充足してる感じがしますし、そういうのとは色の違うものができていくといいですね。参加者のライフステージが変わってもその時々に合ったフェスに行けるようになっていくといいなと個人的には思っているところです。
発行:blueprint/発売:垣内出版 (2017-12-11)
売り上げランキング: 51,438