【サマソニ東京ライブリポート】IAMDDB
ネオソウル × トラップ × UKベースミュージック…。マンチェスター出身の気鋭ヴォーカリスト、IAMDDBである。イギリスから彼女のようなアーティストが出てきたことに、時計の針が確かに進んでいることを実感する。ネオソウルと書いたが、ルーツにはボブ・マーリーもいるようだ。
彼女の音楽の秀逸なところは、空間的なレンジの広さである。『Drippy』にしろ、『Oooo』にしろ、夜中にひとり部屋で聴くのも趣があるが、真昼間の幕張メッセで鳴っても違和感がない。違和感がないどころか、大いに踊れる。日進月歩で更新されてゆくトラップの音像だが、その最先端に居るのは彼女かもしれない。そしてそれは、アンダーグラウンドなシーンとレフトフィールドな音楽が豊かに存在するUKに出自を持つ点が大きく功を奏している。その最たる例が『Pause』だ。何にも似ていないが、多くのジャンルで括れそうな一曲。ヒップホップ、ネオソウル、トラップ、Yung Bushに代表されるようなロンドン・ドリル…。重めのビートに、不穏かつ浮遊感のあるウワモノ。2018年の異能、IAMDDB。
彼女を語るとき、エリカ・バドゥの名前が度々出てくるのも理解できた。もちろん、ネオソウルで括られる以上、その筋のクイーンの名前が出てくることは何ら不思議なことではない。しかしもっと根本的な部分がエリカ・バドゥ的なのだ。時に反抗するように、時にからかうようにオーディエンスと戯れる様は神秘性すら漂わせている。ただステージ上で自由気ままに回遊しているだけなのに、圧倒的な存在感があるのだ。『Moonlight』を聴きながら、彼女がステージに立つ姿を想像して欲しい。エリカ・バドゥのような先達と同じく、ただならぬ雰囲気を感じ取れはしないだろうか。
正直に言うと集客は苦戦していたが、ここはひとつ思い出してほしい。あのケンドリック・ラマーのステージですら、5年前のフジロックでは閑散としていたのだ。その事実を考えると、むしろ何かの兆しのようにも思えてくる。今日彼女のライブを観られた人は幸運であった。