豊洲で超気持ちいいブロックパーティ!! SOUL CAMP 2015ライブレポート

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鬱屈した日常からせめて精神的にでも脱却するために、音楽に活路を見出すキッズは少なくない。筆者もその1人だった。ヒップホップはその最たる例であり、聴けば自分もギリギリの淵を歩いているような気分になる。そして、そのような素晴らしい音楽を僕たちに教えてくれたのは、得てしてカッコイイ大人だった。ところが、その大人たちの姿が最近はめっきり見えなくなってしまった。決して魅力が失われたというのではなく、存在として消え去ってしまったかのように思われた。J・ディラが如何に素晴らしいか、2Pacがどれだけ偉大なアーティストだったのかを教えてくれたタフな大人たち。僕らに熱きソウルを散々叩き込んだ後、自分たちはとっとと海外にでも行ってしまわれたのかと思っていた。が、それは未だに自立できない子供の勝手な思い込みだったのかもしれない。

ここにいらっしゃったのですね!!僕らが憧れたあの大人たちが無邪気にはしゃいでいる!コマーシャライズされたものを可能な限り排除した、インディペンデントな非日常的空間!これだ!これこそが僕らが求めていたブロック・パーティーだ!真っ昼間から超気持ちイイ!90年代を彩ったヒップホップ・アンセムにより、新豊洲の一帯(会場は豊洲PIT、マジック・ビーチ)は完全にジャックされていた。諸事情により、ヤシーン・ベイ(モス・デフ)の出演はキャンセルになってしまったが、その分他のアーティストが熱いステージを見せた。特にブラック・スターで共演するはずだったタリブ・クウェリの漢っぷりは、尊敬されて然るべきである。

Lord Finesse

まずはニューヨークのファンキーマン、ロード・フィネス!オールド・スクールなテイストで観客を沸かせていた。DJとしてのスキルも大変高く、途中のターンテーブル・パフォーマンスでは会場のボルテージを更に上げる。さすがベテランだ。来日回数でも頭一つ抜けている彼は、日本のファンのツボを完璧に理解していた。「Hip 2 Da Game」はいつ聴いてもカッコイイよ!

MAGIC BEACH

マジックビーチ

マジック・ビーチの開放感たるや、それこそ平凡な日常から逸脱していた。アルコールを片手に至高の音楽を楽しみ、陽気な雰囲気に身を委ねる。この日は9月の下旬にしては気温が強く、日差しも強かった。それが更にこの開放区の演出に一役買っていたように思う。嫌でもポジティブな気分になるというものだ。今まで何百回、何千回と聴いてきたノトーリアス・B.I.G.の「Juicy」だが、この日のは格別だった。

ビートナッツの前半を捨ててでも聴きたかったのが、このDJのプレイだ。J・ディラの魂を受け継ぐもの、Mitsu the Beats。述べた通り、不幸なことに彼はビートナッツと出演時間が丸被りしている。やはりベテランラッパーの集客力は抜群のようで、二人を一目見ようとするお客さんが豊洲PITへと押し寄せていった。J・ディラの傑作、「Donuts」のTシャツを着たイケメン(見たところ同世代)まで彼らのもとへ行く始末。「あなたはこちら側の人間ではないのですか!」と腕を引っ張りたくなったが、何にも縛られることない自由な空間こそがSOUL CAMPである。それぞれ楽しめば良いのだ。まぁ案の定、Mitsu the BeatsのDJは最高でしたがね。未発表音源までプレイしてくれるという、この上なく贅沢な内容であった。

更に彼は、この日のうちにブート・リミックスを自身のサウンドクラウドで公開している。圧倒的ワーカホリック。

The Beatnuts

豊洲PIT脇の横断歩道を滑走し、飛ぶように館内へ!当然ながら、この二人に興味がない筈はない。タイムテーブルが発表されたとき、一番頭を悩ませたのがこの時間帯である。結果としてMitsu the Beatsを優先したが、全くもって甲乙付け難い選択だった。筆者が到着した時は、既にパフォーマンスも中盤を過ぎたあたりである。ビートナッツもオーディエンスも完全に出来上がっていた。アッパーな「No Escapin’ This」が、ステージを更に熱狂させる。

Talib Kweli

恐らくこの日一番男を上げたのはこの人と見て間違いなさそうだ。冒頭で述べたように、ブラック・スターではなくタリブ・クウェリとしての出演が急遽決まったが、粋で熱いパフォーマンスで全く不足を感じさせなかった。ヤシーン・ベイの不在を、僕たちオーディエンスに委ねてくれるような計らい。終始、「俺はお前らを信じてるぜ!」と言われているような気分である。1人でブラック・スターの曲を歌ってくれたが、僕らの入れる余地をあえて残しているようだった。実はヤシーン・ベイの方が好きだったが、この日で見事に逆転してしまった(嘘じゃないです)。

Ms. Lauryn Hill

このただならぬ予感に満ちた雰囲気。生唾を飲む音がそこかしこから聞こえてきそうな緊張感。この空間をつい最近経験した記憶がある。ディアンジェロだ。ローリン・ヒルの登場前は、あの時の空気感によく似ていた。バンドセットという部分も同じだ。実際、ライブの中身にも類似点を多く見つけることができる。ステージ上をヒステリックに動き回り、決して台本通りには進行しないエキセントリックぶり。体全体を使ってその場の音楽を操り、即興的な展開もフィジカルな表現で圧倒する。彼女の一挙一動に歓喜の声が上がっていた。まさにディアンジェロを彷彿とさせる。もしや、これは黒人音楽を極めた者のDNAに備わっているものなのか。「Feeling Good」を彼女が歌う意味を、改めて思い知ったような気がする。ニーナ・サイモンも間違いなくそのDNAの持ち主だったのだろう。持ち時間を大幅に超えたパフォーマンスだったが、この大いなる継承にはむしろ足りないぐらいであった。


振り返ると、「ベストアクト更新大会」だったように思う。一発目のロード・フィネスで、「既に今日のべストアクト級じゃないか・・・」と思い、そこから全てのステージで同じセリフが頭をよぎる。決して筆者は移ろいやすいタイプではないが、本当に全アーティストが最高のパフォーマンスを見せていた。これは保証できる。このイベントの参加者は口を揃えて同じことを言うはずだ。ローリン・ヒルについては、もはや確認する必要もないだろう。

もう四の五の言いません。どうか来年も開催して下さい。

「SOUL CAMP 2015」

2015年9月22日(火)
2015年9月23日(水)
会場:東京・豊洲PIT / MAGIC BEACH

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