【サマソニ東京ライブリポート】CHANCE THE RAPPER

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今年ヘッドライナー以上に話題となったミュージックシーンの革命児、チャンス・ザ・ラッパー。初来日のステージは彼が今、世界中で求められるアーティストである理由をより鮮明に感じるものだった。

まずはグラミー賞を受賞し、彼の存在を世界中に知らしめることとなった『Coloring Books』から「Mixtape」「Blessings」「Angels」と勢い良くスタート。彼のステージを待ちわびた人たちならば、きっと何度も何度も聴いたであろう楽曲だ。アリーナでは一緒に歌う者、体を揺らして音を楽しむ者、それぞれが喜びに溢れているのが伝わってくる。

続けて先月発表された新曲「65th & Ingleside」「Work Out」、さらにはこの週末に公開された「What’s The Hook」も披露された。ゲストにReeseynemも登場しMVをバックに2人でステージを走り回り、公開されたばかりの曲とは思えない盛り上がりを見せていた。

DJキャレドの「I’m the One」、カニエ・ウェストの「Ultralight Beam」と参加曲を披露した後には『Coloring Books』『Acid Rap』のジャケットを背後に映し出し、「聴いてくれた人は?」と観客に尋ね、『Acid Rap』から「Favorit song」「Cocoa Butter Kisses」を聴かせてくれた。初来日を意識してか「シカゴから来た、チャンス・ザ・ラッパーです」と何度も自己紹介をしてくれたが、それ以外にも語りかけるように観客を見つめたり、煽ったり、積極的に心を開いてくれているように感じた。そして屈託のない笑顔とポップなキャラクター。世界中の人々が彼に夢中になるはずだ。これほどにポジティブなオーラを纏っている人だということは、露出の少ない日本ではライブを観なければ伝わりきらなかっただろう。

大きく映し出された日の丸を背景に始まった「All We Got」では、“音楽が全てだ”というこの曲のメッセージとゴスペルのハーモニーがこの場にいるすべての人を祝福するかのように響き渡っていた。音楽を愛する様々な人が集まる“フェスティバル”という会場だからこそ、より胸を熱くさせられる。この曲のメッセージを知らずとも、音だけで伝わるものがあったはずだ。

その後には“レコード会社と契約しなくても問題ない”という自らのスタンスをテーマとした「No Ploblem」へ。チャンスの代表曲とも言える楽曲に会場は大いに沸いていたが、そのバックにはグラミー賞のトロフィーとメジャーレーベルをもじったロゴが映し出されていた。そのさり気ない風刺はしっかりと社会を見つめている彼の姿勢をよく表している。そういったところが、また彼への信頼を厚くしているのだ。

続く「All Night」で更に踊らせた後には、「Summer Friends」が日も暮れ涼しくなった会場に夏の終わりを感じさせるような切なさを持って響く。
そして「ちょっと疲れた」からと、スタンドマイクを低くし、セットに腰掛けたチャンス。「Same Drugs」のイントロが流れると、それに合わせてピアノを弾くように手を動かしながら歌い始めた。そこへ、これまで以上に大きく観客の歌声が会場に響くと、チャンスはとても嬉しそうにイヤーモニターを外し、その声に耳を傾け、目を拭う。言葉の違う国で自分の歌を皆が歌ってくれる喜びを噛み締めているように見えた。泣いていたのだろうか? この瞬間、音楽というコミュニケーションを介して、チャンスと観客は確かに繋がっていた。「音楽が全て」と歌う彼にとって、それはどれほど嬉しいことだったろうか。

最後は「Blessings (Reprise)」。楽しく、優しく、音楽への愛に溢れた、この日のステージを締めくくるにふさわしい楽曲だ。ゴスペルのハーモニーと左右に二つに割れ光が差し込む映像から、真っ先に浮かんだのは天国のイメージだった。