【大器の予感】早熟ながら伸び代も未知数。UKの新星、フロー・モリッシー 【天使のルックス】

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20歳の若さにして既に熟成されたサウンドを聴かせるフロー・モリッシー。ロンドンはノッティング・ヒル出身の彼女は、その天賦の才能でもって、止まることを知らない快進撃を続けている。今年はグラストン・ベリーのパーク・ステージにおいて、オープニング・アクトにも抜擢された。まずはこちらをお聴きいただきたい。


驚くべきことに、この曲を書いたのは彼女が15歳の時である。この大人びた音楽の趣味は、彼女が身を置くコミュニティが大きく作用しているらしい。家族や周りの大人の影響で、デヴェンドラ・バンハートやジェフ・バックリーなどに傾倒してゆく。その後にボブ・ディランやニック・ドレイクも聴くようになった。ここに、カルチャーにおけるイギリスの懐の深さを見ることができる。サウンドクラウドやサブスクリプション・サービスの一般化により、我々の音楽に対する接し方は大きく変わった。何か良い音楽を探すとき、他人からの情報というのはかつて大いに役に立ったものである。何より音楽と映画の嗜好は、「僕はこんなヤツです」という自己表現の優れた手段であった。それら全てを省略し、簡略化してしまったのが、先に述べた諸サービスである。もちろん、それらがもたらす利便性や進化を腐すつもりは全くない。だが、一抹の寂しさを感じるのもまた事実である。

イギリスは、どうやらそんな現状とは離れたところにあるらしい。かの地では、未だに音楽がコミュケーション・ツールとしての存在感を強く放っている。筆者がロンドンへ渡った時も、拙い英語力を補ってくれたのはサブ・カルチャーだった。世代や人種を越え、この手の話題が繋がりを作ってくれたのだ。「『ワープ・レコーズ』のミュージシャンが好きです」と言えば、「お前ら(日本人)ホント好きだよな!」と返してくれる。当時ロンドンで出会った人たちは、漏れなく全員が音楽や映画の話に乗ってくれた。嬉しさの反面、文化的な豊かさをまざまざと見せ付けられ、「この国には勝てないなぁ」と思ってしまうのである。

で、その街を代表するようなエリアで思春期を通過し、ある種の「英才教育」を受けてきたのがフロー・モリッシーだ。和製英語の意味でアナログな音楽の聴き方をして来たがゆえに、過去の偉大なアーティストと地続きである。すっかり語られることのなくなった「文脈」が、彼女の中ではしっかり息づいているのだ。強固な音楽性の秘密は、そのあたりにヒントがありそうである。続いて紹介するのは、「Pages of Gold」という曲であるが、ここでも精神年齢の高さを確認できよう。いや、この曲は大人びた一面だけではなく、若者の等身大の姿も見ることが出来る。ラナ・デル・レイと比較されることも多いが、彼女よりも無垢なベクトルにステータスを振っているように思う。

音楽的な素養の高さを鼻にかけることもなく、ただただ素朴。そういう飾り気のないところも魅力だ。キュートなルックスとは相反しており、それがかえって背徳的な美しさを感じさせる。今回のアルバム、「Tomorrow Will Be Beautiful」は全曲を通して、そんな美しさに溢れた一枚だ。その中で、極めて感情的なアウトプットが光っている。静かに、そして儚く爆ぜる昂ぶりに、ぜひ耳を傾けて欲しい。この不世出な大器の成長を見届けた暁には、きっと歴史の目撃者になれるはずだ。初来日公演、もう間もなく。

フロー・モリッシー 来日公演

2015年10月9日(金) with 青葉市子
会場:東京・晴れたら空に豆まいて

2015年10月10日(土)
会場:京都・太陽と星空のサーカス at 梅小路公園

2015年10月11日(日)
会場:静岡・朝霧JAM

2015年10月12日(月) with 林拓
会場:東京・elephant STUDIO

<関連リンク>
フロー・モリッシー レーベル・サイト