『rockin’on』編集長・山崎洋一郎が語るサマソニとは?
20年間サマーソニックに通い続け、いつもそのレポートをリアルタイムでブログにアップしてきた『rockin’on』編集長の山崎洋一郎さん。
大阪会場に通っていた時期もあり、東京と大阪、どちらの会場も熟知している山崎さんに、20周年を迎えるサマーソニックの歴史や今年の見どころ、大阪会場の魅力などについて話を伺いました。
“サマソニの味方”にキャラ設定
ー第1回目から参加されている山崎さんにとって、サマーソニックはどのようなイベントですか?
山崎 サマーソニックが“都市型フェス”というコンセプトで始まった時って、ちょっと味方が少なかったんですよ。みんな先に始まったフジロックを絶賛していたし、信者も多くて「フェスと言えばフジロックだよな」って感じで。
ーそれは都市型フェスだからですか?
山崎 やっぱり“フェス=自然の中”という独特なフェスカルチャーみたいなのがあったんですよ。
ーヒッピーカルチャーの色が濃かった。
山崎 そうそう。そういうものこそがロックフェスだ!っていう、1つの価値観をフジロックは強力に打ち立てたから。
サマーソニックは電車で行けて便利で敷居もそんなに高くないものだった。でも、それって便利だけどフェスとしてどうなの?って意見はあって。だから、俺はあえてサマソニの味方として最初から自分をキャラ設定してたの。
ーなるほど。
山崎 その頃からフジロックは味方がいっぱいて、語る人はいっぱいいたから、俺はコラムでも「都市型いいじゃん、便利で。気軽に楽しめて。それこそがロックじゃん!」みたいなことばっかり書いてた。
ー実際、山崎さんの楽しみ方にも合っていましたか?
山崎 もともとユーザーとしては、そんなにフェスが大好きっていう人間ではないんですよ。できれば部屋の中で、1人で爆音で聴く“孤独なコミュニケーション”というイメージが俺の中にあるロックなんです。
ー音と向き合う、みたいな…?
山崎 そう。だからコミュニティ的に楽しむのは、俺にとってはあんまり馴染まないんですよ。「もっとロックは孤独だぜ…」みたいな。だから都市型フェスのあり方っていうのは、俺にとってはすごくしっくりくるものだった。1人で電車に乗って、観たいものを観て、サクッと1人で帰ってこられるから。そういう人も多いだろうなと思うし。
アーティストのセレクトも微妙にフジとは違うじゃないですか。ざっくり言っちゃうと、フジロックは60、70年代のロック文化が基本になっていて、それがどんどん時代に合わせてアップデートしていく感じ。それに対して、サマーソニックのイメージはもうちょっと新しい、90年代っぽいイメージがあって。そこも世代的にすごくしっくりくる部分でしたね。
ーフェスを主催している同業者としての観点からサマーソニックはどうですか?
山崎 言っていいんですか(笑)?
ーどうぞどうぞ(笑)。
山崎 主催である清水さん(クリエイティブマン代表)って、すごい素直な人なんですよね。開催初期はすごくゴミが散らかっていて、「お客さんに“きれいに会場を使おうよ”って働きかけしないと駄目ですよ、絶対皆そうしてくれるから。」ってことを言うと、「そうだね」って言ってすぐに動いてくれて。だから最近は会場がきれいですよね。
ーそうですね。
山崎 毎年『rockin’on』では開催前、清水さんにインタビューを受けてもらうんですけど、本当はこのアーティストに出演してほしかったけど駄目だった、とかすごく正直に話してくれるんですよ。正直すぎてこっちが掲載していいのか心配になるぐらい(笑)。
ー(笑)。
山崎 それぐらい素直で誠実な人なんですよね。だから、あえて偉そうな言い方をすると、最初の頃はマイナスポイントが結構あったんだけど、どんどん改善されている“柔軟なフェス”だよね。それは清水さんのキャラクターだと思う。
自然に紐付いた今年のブッキング
ー今年山崎さんが注目してるラインナップを教えてください。
山崎 サム・フェンダーはすごく注目されてますよね。あとはザ・レモン・ツイッグス、スーパーオーガニズム、タッシュ・サルタナも来るし、スノウ・パトロールはアコースティックでのセットなんで、これもすごく楽しみですね。
でも1番楽しみなのはThe 1975。アルバム( 2018年11月30日にリリースされた3rdアルバム『A Brief Inquiry Into Online Relationships』)が本当によかったんで。
今は誰もロックバンドの歌詞って注目してないじゃないですか。歌詞に関してはラッパーに圧倒的に負けちゃってるから。あるいは逆にポップアクトのほうがよっぽど大胆で、えぐいことをガンガン歌ってる。ロックバンドは保守的なものしか歌わなくなったイメージがある中で、The 1975の今回のアルバムの歌詞は素晴らしかった。ロックの新しい歌詞をまた新しく発明し直したようで僕は高く評価しています。あのアルバムをライブでどうやるのかっていうのは、ものすごく楽しみですね。
あと、この間の来日の時にライブに行けなくてすごく悔やんでるから、フルームも観ておきたい。
ーやはり観たことないアーティストは外せないですか?
山崎 気になってチェックしなきゃと思って観たやつは、大体当たりですよね。洋楽はそういうとこが好きなんですよ。全体にレベルが高いから打率が高い。
それこそ去年のビリー・アイリッシュもチェックしなきゃと思って観に行ったけど、あれは本当に素晴らしかった。でも、その頃はまだバズってなかったからお客さんも少なめでしたよね。最前列まで行けたからね。
ーこれからブレイクするという意味では、今年はどのアーティストが当てはまると思いますか?
山崎 サム・フェンダーはなり得るんじゃないかな。
ー東京会場のチケットは早くからソールドアウトとなっていましたが、その要因はどこにあるとお考えですか?
山崎 やっぱり今年はブッキングのバランスが絶妙だなって思います。ヘッドライナーでちょっと心が動いた人が「これも出る、これも出る、じゃあ行こう」って思う並べ方がすごく上手い。各日のジャンルを分けるために分けたっていう感じがしないんですよ。観たいと思うアーティストが自然に紐付いてる。そこが今年の勝因じゃないでしょうか。
大阪会場はメロコア的なラフさがある
ー大阪もソールドアウトしそうな勢いだそうですが、山崎さんは大阪会場に通っていた時期がありますよね?
山崎 初年度は富士急で観て、翌年からずっと大阪でしたね。その後、幕張の方にも行きましたが、2006年に「COUNTDOWN WEST」っていう「COUNTDOWN JAPAN」の大阪版を主催していた縁もあって、2006年からまた大阪に行っていました。
ー最初、大阪会場に行こうと思ってたのはなぜですか?
山崎 自分が関西出身という事と、やっぱり『rockin’on』の編集長をやってるので、余計なお世話なんですけど、日本の洋楽シーンやマーケットが気になるんですよ。フェスティバルっていう大きなビジネスを成立させるために、どうしても開催は関東中心になってしまうから、大阪で洋楽フェスが行われていることの意味はものすごい大きいんです。だから、それがどう行われているのか、この目で見とかないとなっていう思いでしたね。関西の洋楽リスナーが集結するところが見たかったというか。大阪はそれまで洋楽フェスなんてなかったから、いったいどういう盛り上がりになるのか、この目で確かめたかったっていうのは、すごく大きかったです。
ー実際に行ってみてどうでしたか?
山崎 ハマりましたね。
ーその要因って何だったんでしょう?
山崎 “独特のラフさ、いい加減さ”みたいなところがあって、それがすごくロックフェスっていうものと合っていたし、独自のグルーヴを生み出していたんですよ。
幕張メッセは空間づくりも運営もキチッとしてるじゃないですか。フジロックはフジロックでまた別のルーズさみたいなのがあるんですけど、ルーズさとはまた違う“ラフさ”。フジロックのルーズさがブルースだとしたら、サマソニ大阪のラフさメロコアみたいな。
当初はメインステージの客席エリアが土だったから土埃がすごくて。でも、みんな顔が真っ黒になっても気にしない。その感じがやっぱり東京の会場にはない空気でしたね。さらにその客席のど真ん中をごみ収集車が「はい、どいて〜!」って走っていく光景はもう何じゃこりゃ?!みたいな(笑)。
ーそれは確かにラフですね(笑)。大阪は主に野外のステージというのも東京との大きな違いを生んでるんですかね。
山崎 野外フェスっていう解放感は大阪の方が圧倒的に強いですよね。フジロックの山の中の夏フェスのイメージとも違って。やっぱりそこもメロコアな感じ。
舞洲の会場に移った頃、「COUNTDOWN WEST」のブースを出させてもらって、チケットを売ってたんですよ。その時に普通だったら会社のデザイン部に頼んで看板を作らせるんだけど、なぜか俺は「いや、それは違う」ってペンキ買ってきて、自分の手書きで<カウントダウン、チケット売ってます>って書いて、それを看板にしてたんです。あの会場はそういうのが似合うと思って。それ多分幕張でやったら絶対浮くでしょ?
ーそうですね(笑)。
山崎 それがね、大阪だと全然浮かないの。
ー会場の作りに関してはどうでしたか?東京に比べるとコンパクトで楽だという話をよく聞きますが…。
山崎 そう。だから、観たいアクトをちゃんと観られるのは素晴らしいと思いますね。
ー大阪会場で観たアーティストで強く記憶に残っているアーティストや年はありますか?
山崎 いろいろ思い出深い光景がありますね。舞洲に移ったばかりの頃のザ・ヴァーヴとコールドプレイが出た年かな。僕はUKロックが好きなので、ヴァーヴの再結成っていうのが大阪で、野外で、夏フェスで観れるっていうのは、ちょっとファンタスティックでしたね。
この2008年、同じ日に来てるのザ・フラテリス、ザ・サブウェイズ、ザ・キルズ、ケイジャン・ダンス・パーティーとかで、UKロックの最後の盛り上がりの季節って感じでしたよね。それと同時にジャスティス、ハドーケン!も出てて、次のエレクトロな波がもう来ちゃってるんですね。
ーでは最後に、サマソニが20年で与えた影響というのはどういう部分に一番感じていますか?
山崎 やっぱり洋楽ロック、洋楽ポップってすごいんですよ。アメリカやヨーロッパの人は、そのすごいものを小さい頃から聴いて、観て、その人たちがまた新しい世代として音楽をやるときに、またすごいものが生まれるわけですよね。
でも日本は日常的に洋楽のアーティストがライブをやってるわけじゃないし、テレビでも洋楽がかかりまくってるわけじゃないから、よっぽど意識的に聴かない限り接する機会はないわけです。そんな中でフェスで実際に洋楽アーティストのすごさを目の当たりにできる機会は年に1回しかないんだけど、でもその年に1回があるっていうことの意味は計りしれないぐらい大きい。
だって、日本だとビリー・アイリッシュの名前は知ってても、ほとんどの人が見たことないわけですよ。実際に見てそのすごさを味わえる、目の当たりにできるっていうことは言うまでもなくでかいんですよ。すごい変な例えしていいですか?
ーぜひ。
山崎 例えば逆の考えでいきましょう。寿司。やっぱり日本の寿司はレベルが高いわけですよね。絶対。アメリカ人でもすごい寿司職人がいるかもしれないけど、1回でも日本の寿司職人が握った寿司を食べたことあるかないかで全然違うわけでしょ。
だからやっぱり、体験するってことの意味は大きいんですよ。レディオヘッドを見たことない人がレディオヘッド見たら人生変わると思うし、2005年にサマーソニックでオアシスのあのステージを見て人生変わったって人だっていっぱいいると思うし。いくら本で勉強して、いくら写真を見ても、本物を食わないと分からないんだよ。
ー日本でもそういうものを体験した人がアーティストになっていくことで、良い音楽が生まれていくとも言えますよね。
山崎 特にロックに関しては日本は完全にガラパゴス状態だし、俺がもしプロダクションやレコード会社の人間なら所属してるアーティスト全員連れて行って、サマーソニック見学しますよ。だって絶対勉強になるもん。
ー出演する日本のアーティストも普通にライブを楽しんでたりしますよね。
山崎 the HIATUSの細美くんなんて、サマソニ出演する時は走り回って他のアーティストのライブ観まくってますから。やっぱりすごい貴重なイベントなんですよ。