濃密で熱いライブが繰り広げられた「After Hours’17」ライブレポート

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『芸術を駄目にするものへの闘争』
そんなセンセーショナルなテーマを掲げたフェスである「After Hours’17」が4月9日(土)に渋谷・TSUTAYA O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nestの4会場で開催されました。

MONO、envy、downyの3組のアーティストが主催を務めるこのイベントは昨年SYNCHRONICITYとのコラボレーション「SYNCHRONICITY’16 – After Hours –」でキックオフし、今回は記念すべき第1回目。この日は雨が降っていたにも関わらず開演前からすでに多くの人が会場に集まっていました。確かに始めから終わりまで世界で活躍するようなアーティストがひしめき合う隙のないタイムテーブル。

そんな「After Hours’17」のライブレポートをお届けします。

MONO

MONO
photo:Yoko Hiramatsu

O-EASTは主催の1組であるMONOで幕開け。この日1組目だというのにすでに会場内は1、2階とすでにいっぱい。そして早速美しい轟音に身を任せます。この箱で彼らの轟音はちゃんと聴こえるのか?という心配もありましたが、この日は前日のSYNCHRONICITY同様、オヤイデ電気がケーブルを提供していることもあり、轟音の中でもしっかりと音像を捉えることができました。その1音1音を聴き逃すまいと観客席にも緊張感が漂います。そして、美し音の洪水と日が昇るようにバックから彼らを照らす照明が合わさった瞬間はこのイベントの始まりを告げるにふさわしいワンシーンでした。

world’s end girlfriend

world's end girlfriend
photo:Yoko Hiramatsu

その後duoではworld’s end girlfriend。心臓が止まるかと思うような爆音からスタートし、心の奥をこじ開けるように暴力的な音とストリングスの優しい音色が絡まる複雑さは、怖いけれどその先に行ってしまいたくなる危うさを感じさせてくれます。そしてバックに映し出される抽象的な映像はそんな複雑な音楽によって補完されているようでした。

downy

downy
photo:Eisuke Asaoka

もう1組の主催者であるdownyのライブが行われたO-EASTはテクニカルなリズム隊の音、青木ロビンの浮遊感のある歌声、めまぐるしく流れる映像、と受け取るもの濃密さにやられ、気づけば異次元へと連れて行かれそうになります。会場を出た時に、外はまだこんなに明るいのかと違和感を感じるほどでした。

THA BLUE HERB

THA BLUE HERB
photo:Eisuke Asaoka

そしてduoではTHA BLUE HERBのステージが始まります。今年20周年を迎える彼らのMCとDJの息のあったプレイは流石。これまでの歴史と己のスタイルを貫き続けるBOSSのリリックは説得力が違います。この日の出演者の中でも赤裸々に自らを表現するスタイルは、このイベントの意義をまっすぐに伝えてくれる代弁者のようでした。

tricot

tricot
photo:Eisuke Asaoka

ベテランアーティストが名を連ねるO-EASTのステージに立ったtricot。堂々とした演奏、そしてMCで語った「自分たちがかっこいいと思っている音楽をかっこいいと思ってもらいたい」という強い意志を持った姿に若い彼女たちがこのステージに立っていることの意味や希望を感じさせてくれました。

Tomy Wealth

Tomy Wealth
photo:Kana Tarumi

O-nestは一番キャパシティの小さな会場でありながら、そこで渦巻く熱には凄まじいものがありました。Tomy Wealthのステージはフロアの後方まで床の振動が伝わるほどの力強いドラムと美しいメロディでたちまち会場を支配し、ゲストにGenius P.J’sのchamoisも登場。轟音とそれに負けない力強いラップにはもっと聴いてみたいという気持ちを掻き立てられます。こんな見ごたえのあるアーティストがぞろぞろといるのがO-nestの面白さです。

DJ KRUSH

DJ KRUSH
photo:Eisuke Asaoka

すっかり日も落ちた頃、O-EASTではDJ KRUSHが巧みな手さばきで観客を誘います。会場内もその感覚を楽しむようにゆったりと心地好さそうに体を揺らしていました。25年という活動を経ても常にアップデートされ続ける彼のパフォーマンス。この日はポーティスヘッドの楽曲を使っていたのが印象的でした。

envy

envy
photo:Eisuke Asaoka

主催者であるenvyはこの日久々のライブ。昨年のシンクロニシティ開催前にヴォーカルが脱退し、そこから1年経ったこの日、duoには彼らの新章の始まりをしかと見届けようと、溢れんばかりの人が集まっていました。演奏が始まると待ちわびていたファンの思いと彼らの音楽が相乗効果で高まっていくのがヒリヒリと伝わってきます。ゲストボーカルにはkent(heaven in her arms)と向(kamomekamome)を迎え、新曲2曲はギターのNobukata Kawaiが歌います。そのうちの1曲で「この歌ができた時に涙が止まった」と語った曲が忘れられません。明るい曲調ながらもこの曲が悲しみや切なさをすくい取って出来上がったことが伝わる、逆に聴いている方が泣いてしまいそうになる曲でした。

toe

toe
photo:Kana Tarumi

各ステージのとりはtoe、eastern youth、Boris,Crypt City。同じ時間帯にこのアーティストたちが演奏しているということにもこのイベントの濃厚さが伺えるのではないでしょうか?
O-EASTのラストを飾ったtoeのステージは山嵜のラフなMCとは裏腹に各メンバーが全身全霊を込めて演奏します。さらに、アンコールで演奏した「グッドバイ」にはゲストとして土岐麻子が登場。このサプライズには会場中が喜びと感動に包まれました。初めて披露されたフジロックから10年経ちますが、改めてこの曲の色褪せなさを感じます。

これだけのアーティストを一気に観るという実に濃厚な1日。でも疲れよりも充実感がそれを上回っていました。どのアーティストも自らのスタイルを追求し、それを素晴らしい楽曲とパフォーマンスで表現していました。

そして、この日特に感じたのはどのアーティストの間に大きなリスペクトがあったこと。MCで他のアーティストについて触れる事が多かったように感じます。それだけでなく、この日観たアーティストであるDJ KRUSH、THE BLUE HERB、Tomy Wealthの間にあるような、世代を超えて脈々と受け継がれていくクリエイティビティの存在も感じられました。ともすると社会では見失われがちなクリエイティビティが内包するエネルギー。この日集まったアーティストはどのアーティストもそのエネルギーに魅せられ続けているのでしょう。そして、それはアーティストだけでなく、聴き手である私達も同じ。そんな意識を忘れたくないなと思わされました。アーティストと観客とでこのエネルギーを共有できる貴重なイベントとして来年の開催もぜひ期待しています。
 

text:くのまい

  
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コメント 1件

  1. 匿名

    THA BLUE HERBがTHE BLUE HERBになってますね。文中。