【2018年海外フェス振り返り】ビヨンセが魅せたコーチェラでの歴史的パフォーマンス
夏の大型フェスが終わり、落ち着きを見せ始めたフェスシーン。そんな中で今年日本国内のみならず、世界中で話題となったのがコーチェラ・フェスティバルでのビヨンセのパフォーマンス。
今年のフェスシーズン開始早々に圧倒的なパフォーマンスを見せ、「歴史的なパフォーマンス」として連日メディアは彼女の話題で持ちきりとなっていました。実際今シーズンを通してみても、人々の記憶に残るパフォーマンスとしてあのステージ以上のものはなかったと言えるのではないでしょうか。
黒人女性として初のヘッドライナー
今年ヘッドライナーにバンド・アクトが1組もいないということが話題になったコーチェラですが、その一方でビヨンセは黒人女性として初めてのヘッドライナーを務めました。
これまで数々の伝説的なパフォーマンスが披露され、最近ではライブ配信が行われることもあり、ますます世界中から注目を集めるコーチェラのヘッドライナー。今年フェスシーンで起こった出演アーティスト男女比50:50を目指す動きやBlack Lives Matterなどマイノリティーな人たちを後押しする動きが強まる中で「世界最高峰のフェスで黒人女性初のヘッドラーナー」というのは今の時代を表すようなアクトとも言えます。
そんなステージにビヨンセの気合が入らないわけがありません!なんとこの日のステージのために連日11時間に及ぶリハーサルをしていたのだとか。最後にはMCで「私をコーチェラで初の黒人女性のヘッドライナーにしてくれてありがとう」とも話していました。
さらに付け加えれば、本来は昨年出演予定でしたが双子を妊娠したために急遽キャンセル。その年はビヨンセの代わりにレディ・ガガがヘッドライナーを務めました。
ドクターストップでのキャンセルですから仕方のないこととはいえ、真面目な性格のビヨンセはこのことをすごく気にかけていたのではないでしょうか。きっと彼女のステージを楽しみにチケットを買ったファンもいるはずです。一年越しのステージにはファンの期待以上のものを見せたい。いつも素晴らしいステージで驚かせてくれるビヨンセですが、今回はいつも以上にそんな思いも強かったのではないかと思います。
黒人文化を盛り込んだステージ
今回のビヨンセのステージが歴史的と言われる最も大きな理由として、黒人文化を随所に取り入れたステージの演出があります。
まず、ステージに登場した古代エジプトの王妃ネフェルティティのを思わせるビヨンセの衣装。ブラック・ビューティーの象徴とされるネフェルティティの名前の意味は「美しい者が訪れた」。この衣装で最初に登場したことの意味深さが伺えます。さらにピラミッド型に高くそびえるステージも古代エジプトを連想させられます。
そして開始早々に披露された「Lift Every Voice and Sing」。アメリカ黒人国歌ともいわれるこの曲を最初に披露することで今回のステージのテーマを提示してるようでした。
そしてもう一つこのステージで象徴的だったのは大学のモチーフ。ダンサーやバンドメンバー、更には衣装チェンジしたビヨンセも大学風の輝くエンブレムが目を引く衣装をまとっていました。エンブレム内にはネフェルティティ、ブラックパンサー党(アメリカで黒人解放闘争を展開していた政治組織)、レイズド・フィスト(プロテストの象徴)、蜂(ビヨンセのシンボル)とここでもブラック&フェミニズムのシンボルが並び「黒人女性初ヘッドライナー」ということへの意識の高さが伺えます。
では、なぜ大学モチーフだったのか。それはこのショーの後日明らかにされました。
ビヨンセは公式サイトで4つの大学に計10万ドルを寄付するホームカミング奨学金プログラムを発表。コーチェラでのパフォーマンスは優れた教育への敬意、ホームカミングや大学への称賛を表したものだということを明らかにしました。寄付先の大学は黒人学生への大学教育を理念に設立された歴史的黒人大学(HBCU)である4校(翌週には更に4校追加され計8校に)。HBCUのマーチングバンドはアメリカ国内でも特別な存在です。
それがこのステージのサウンドを担ったブラスバンドの理由へと繋がっていくのです。ブラスバンドはニューオリンズが発祥の地と言われており、ニューオリンズのあるルイジアナ州は母親がルイジアナ・クレオールの家系にあるビヨンセにとっても縁のある場所。全編通してブラスバンド・アレンジによって演奏される数々の名曲はとてもフレッシュに聴こえました。
少し話はそれますが、ダンサーもバンドもほぼ黒人のメンバーで占められたこのステージに1人の日本人女性が参加していたことはご存知ですか?キーボーディストである辻利恵さん。
彼女は2006年に1万人のオーディションを勝ち抜き、ビヨンセの専属キーボーディストとして活動してきました。現在は子育てをしながらアーティスト活動を続けています。出産、子育てを経て、再びビヨンセのステージに立つということは彼女の努力も並大抵ではなかったはず。同じ母親として、ミュージシャンとして生きるビヨンセはきっとその努力を誰よりも理解してくれる人なのではないかと思います。
デスチャ再結成
コーチェラ1週目にビヨンセが出演する前に飛び込んできたのがデスティニーズ・チャイルドが再結成するというニュース。当日は昼間からお客さんはその話題でもちきり。いざステージに伝説のグループが登場すると会場では悲鳴にも近い歓声が起こっていました。
これまでもスーパーボウルのハーフタイムショーなど、ビヨンセの大事なステージで一日限りの再結成を披露してきましたが、ここでも彼女の歴史の1ページとしてステージを共にしたのです。
他にも夫であるジェイ・Zや妹のソランジュもゲスト出演。ステージ後半で怒涛のゲストラッシュを見せました。そういったファンの喜ぶポイントもしっかりと抑え、誰が観て楽しめるステージに仕上がっているのが今回のビヨンセのステージのすごいところ。社会的な要素を取り入れながらも、エンターテイメントとしての仕上がりも譲らない。ビヨンセの完璧主義っぷりには敵いません。
至高のエンターテイメントであり、社会に対するスピーチでもあったこのステージが世界にどんな影響を与えたのか。今すぐには表出していないかもしれませんが、きっと数年後これが歴史の転換点だったと語られる日が来るのではないでしょうか。